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十二国記016

时间: 2020-08-18    进入日语论坛
核心提示: ──陽子が目を開けると、青白《あおじろ》い闇のなかにいた。 息をしたとたん、全身が痛んだ。特に胸の痛みがひどい。 とっ
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 ──陽子が目を開けると、青白《あおじろ》い闇のなかにいた。
 息をしたとたん、全身が痛んだ。特に胸の痛みがひどい。
 とっさに両手を顔の前にかざして、陽子はかるく息をついた。そこには爪も、赤い毛並みも見えなかった。
「………………」
 声にならない安堵《あんど》のため息をつく。なにが自分におこったのか原因を思い出そうとして、はたと記憶がよみがえった。あわてて体を起こそうとしたが、身体が硬直したように強《こわ》ばって動かない。
 ゆっくりと何度か息をして、それからそろそろと身を起こした。深い息をくりかえすあいだに、痛みはゆるやかに引いていく。半身をおこした陽子の身体からパラパラと松の葉がこぼれ落ちた。
 ──松。
 確かに松葉のようだった。周囲を見わたすと松林、頭上を見あげると折れた枝の断面が白い。そこから墜落してきたのだろうとわかった。
 右手はしっかり今もなお、剣の柄《つか》をにぎりしめていた。よくも放さなかったものだと思い、ついで自分の身体をあらためて、よくも怪我《けが》をせずにすんだものだと思う。細かいかすり傷は無数にあったが、怪我と呼べるほどの傷は見当たらなかった。ついでに、なんの変化もない。
 陽子はそろそろと背中を探る。スカートのベルトにはさまれて失いもせずにすんだ鞘《さや》を引き出すと、それに剣を収めた。
 白い靄《もや》が薄く流れている。夜明け前の空気が漂っていた。波の音が響いている。
「それであんな夢をみたんだ……」
 気味の悪い返り血の感触と、バケモノと戦わされた経験、そうして、波の音。
「……最低」
 つぶやいて、陽子は周囲を見わたした。
 あたりは浜辺によくある松林に見える。海の近く、夜明け前。そして自分は死にもせず身動きできぬほどの怪我も受けていない。──それが陽子の得た情報のすべてだった。
 林にはなんの気配もなかった。おそらく敵も近くにはいない。そうして──味方も近くにはいない。
 海面に映った月の影からすべり出たとき、月は高いところにあった。今は夜明け。それほどの時間、自分がひとりで放っておかれたからには、ケイキたちとはぐれたのにちがいない。
 ──迷子《まいご》になったときは動かないこと。
 陽子は小さく口の中でひとりごちた。
 きっとケイキたちが探してくれるだろう。あんなにえらそうに守ると言っていたのだから。軽はずみに動けば、かえってすれちがってしまうおそれがある。
 そう考えて身体を近くの幹《みき》にもたせかけると、さやにむすびつけられた珠《たま》をにぎってみる。あちこちの痛みがそれでゆっくりと引いていった。
 不思議だと、そう思う。
 あらためて珠を見ても、ただの石にしか見えない。ガラスっぽい光沢の、とろりとした青をしていた。青い翡翠《ひすい》があるとすれば、こんなものかもしれない。
 そんなことを考えてから、堅《かた》く珠をにぎりなおす。じっとそこに座ったまま目を閉じていた。
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