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十二国記020

时间: 2020-08-18    进入日语论坛
核心提示: なんとか歩ける畦《あぜ》を探して、陽子は農作業を続ける人影のほうへ歩いていった。近づくにつれ、彼らが少なくとも日本人で
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 なんとか歩ける畦《あぜ》を探して、陽子は農作業を続ける人影のほうへ歩いていった。近づくにつれ、彼らが少なくとも日本人でないことはわかった。
 茶色い髪の女がいて、赤い髪の男がいる。ひどくケイキに似た雰囲気があった。
 顔立ちや体つきはすこしも白人のようでないのに、とってつけたように髪の色だけが違うせいだろう。その点を除けばごく普通の男女のようだった。
 着ているものは着物に似たすこし変わった服で、男の全員が髪を伸ばしてくくってはいたが、それ以外に特に異常は見当たらない。彼らはシャベルのようなものを突き立てて、畦を壊そうとしているようだった。
 作業をしていた男のひとりが顔をあげた。陽子を見て周囲の人間をつつく。なにか声をかけていたが、特に耳なれない音には聞こえなかった。その場にいた八人ほどの男女が陽子のほうを見て、陽子はかるく頭を下げた。ほかにどうすればいいか思いつかなかった。
 すぐに三十前後の黒髪の男がひとり、畦にあがってきた。
「……あんた、どこから来たんだね」
 日本語を聞いて、陽子は心底ほっとした。自然に笑みが浮かぶ。思ったほどひどい状況ではないようだ。
「崖のほうからです」
 ほかの男女は手を止めて、陽子と男を見守っている。
「崖のほう? ……郷里《くに》は」
 東京です、と言いかけて陽子は口をつぐんだ。事情を話す、と簡単に考えていたが、果たして正直に事情を話して信じてもらえるのだろうか。
 陽子が迷っているうちに、男が重ねて聞いてきた。
「妙な格好をしているが、まさか海から来たのかい」
 それは事実ではなかったが、かなり事実に近かったので陽子はうなずいた。男が目を丸くする。
「なるほど、そういうことかい。こいつは驚いた」
 男は皮肉な笑みを浮かべて、陽子には理解できない納得のしかたをした。不穏な目つきでにらむようにしてから、陽子の右手に視線をとめた。
「たいそうなもんを持ってるな。それはどうしたんだ?」
 さげたままの剣のことを言っているのだとわかった。
「これは……もらったんです」
「誰に」
「ケイキというひとです」
 男は陽子のすぐそばまで歩み寄ってくる。陽子はなんとなく一歩さがった。
「あんたには重そうだな。──よこしな。俺が預かってやろう」
 陽子は男の目つきにすこし怯《おび》える。親切だけで言っているとは思えなかった。それで剣を胸に抱いて首を横にふる。
「……だいじょうぶです。それより、ここはどこなんですか?」
「ここはハイロウだ。人にものを聞くのに、そんな物騒なものをちらつかせるもんじゃない。それをよこしな」
 陽子はあとじさった。
「放してはいけないといわれているんです」
「よこせ」
 強く言われて陽子はおじけた。いやです、と言い通す覇気《はき》を持てなくて、しぶしぶ剣を男に向かってさしだす。男はひったくるようにうけとって、剣をしみじみ眺めた。
「たいした造作だ。これをくれた男は金持ちだったろう」
 見守っていた男女が集まってきた。
「どうした。カイキャクか」
「そのようだ。みろや、たいそうなしろものだ」
 男は笑って剣を抜こうとする。しかし、どうしたわけか刀身は鞘《さや》を動かなかった。
「飾りもんか。──まぁ、いい」
 男は笑って剣を腰の帯に差す。それからいきなり腕を伸ばして陽子の腕をつかんだ。陽子が悲鳴をあげるのもかまわず、男は乱暴に陽子の腕をねじりあげる。
「……痛い! 放して!」
「そうはいかないなぁ。カイキャクは県知事に届けるのが決まりだ」
 笑いながら言って、男は陽子を押し出す。
「さ、歩きな。なぁに、悪いようにはしないからよ」
 男は陽子をむりやり歩かせて、周囲のものに声をかける。
「誰か手伝ってくれ。つれて行こう」
 ──腕が痛い。この男は正体が知れない。どこへ連れて行かれるのか不安を感じる。
 心底放してほしいと思った。思ったとたん、手足に冷たい感触がつたって、陽子は男の手をふりほどいていた。腕が勝手に伸びて男の腰の剣を鞘《さや》ごと引き抜く。大きく跳んであとじさった。
「……てめえ」
 すごむ男に周囲の人間が声をかける。
「気をつけろ、剣を──」
「なぁに。あれは飾りもんさ。おい、娘。おとなしくこっちへ来い」
 陽子は首をふった。
「……いや」
「引きずっていかれたいのか? いきがったまねをせずにこっちへ来い」
「……いやです」
 遠くからも人が集まりはじめていた。
 男が踏み出す。陽子の手は剣を鞘から抜いていた。
「なにぃ!?」
「近づかないで……ください」
 棒を飲んだように動けない人々を見わたして、陽子はあとじさる。身をひるがえして逃げ出すと、背後から追ってくる足音がした。
「来ないで!」
 ふりかえって追ってくる男たちを認めるやいなや、身体が動いてその場に踏みとどまった。剣が身構えるようにあがる。音を立てて血の気が引いた。
「やめて……!」
 突っこんでくる男に向かって剣が動く。
「ジョウユウ、やめて!」
 ──だめだ。それだけは、できない。
 切っ先が鮮《あざ》やかな弧《こ》を描いた。
「人殺しはいやぁっ!!」
 叫んで堅く目を閉じた。ぴた、と腕の動きがとまった。
 同時に強い力で引き倒される。誰かが馬乗りになって剣をむしり取った。痛みよりも安堵《あんど》で涙がにじんだ。
「ふざけた娘だ」
 乱暴にこづかれたが、痛みを感じる余裕はなかった。引きずるように立たされて、二人の男に両腕をうしろ手にねじりあげられる。
 抵抗する気にはなれなかった。ひたすら心の中で、動かないで、とジョウユウに願う。
「村につれていけ。その妙な剣もだ。それごと県知事に届けるんだ」
 どんな男が言ったのか、目を閉じた陽子にはわからなかった。
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