十五分ほど歩いてたどりついたのは、高い塀《へい》に囲まれた小さな街だった。
さっき見た集落は何軒かの家が集まっただけだったが、ここは高さが四メートル近くもありそうな塀が町の周囲を取りまいていて、四角いその外周の一方に大きな門がある。いかにも頑丈そうな門扉《もんぴ》は内側に向かって開かれていて、そのむこうに赤く塗られ、何かの絵を描いた壁が見える。壁の手前には、どうしたわけか誰も座っていない木製の椅子がひとつ置き去りにされていた。
背後から押されて陽子は街のなかに踏みこむ。赤い壁を迂回《うかい》すると門前の通りが一望できた。
その街の風景は、どこかで見たようで、同時にひどく異質な感じがした。
どこかで見たことがあるような気がするのは、建物の雰囲気が東洋的だからだろう。白い漆喰《しっくい》の壁、黒い瓦《かわら》屋根、枝を差しかけたひねくれた形の樹木。にもかかわらずすこしも親近感を感じないのは、まったく人の気配がないからにちがいない。
門前からは正面に広い道が、左右に細い道が伸びていたが、そこには人の姿まったくなかった。建物は一階建て、道に面しては軒《のき》の高さの白い塀が続いている。その塀が一定の間隔で切れて、そこから小さな庭をへだてて建物が見えた。
どの家も大きさに大差はなく、建物の外観も細部は違ってるもののよく似ている。それでひどく無機的な感じがした。
家によっては窓が開いていて、そとへ向かって押しあげる板戸を竹の棒で支えてあったが、窓が開いているのがかえって白々しいほど街はみごとに人の気配がない。道にも家にも犬一匹見あたらなかったし、なんの物音もしなかった。
正面の広い通りは長さが百メートルほどしかなくて、突き当りには広場がある。白い石に鮮やかな彩色をほどこした建物が見えたが、鮮やかな色がひどくそらぞらしい感じがした。左右の細い道は三十メートルほどで直角に曲がって、突き当たりは街の外壁。その曲がり角の向こうからも人の気配は伝わってこない。
見わたしてみても抜きん出て高い屋根はなかった。黒い瓦の屋根の上に、街の外壁がのぞいている。視線をめぐらせれば、外壁の形が見て取れる。それは奥行きの深い細長い四角形をしていた。
窒息《ちっそく》しそうなほど狭い街だった。広さはおそらく、陽子が通っていた高校の半分もないだろう。街の広さに対して外壁があまりに高い。
まるで水槽《すいそう》のなかのようだ、と陽子は思った。大きな水槽の、水の底で眠りについた廃墟《はいきょ》のような街だった。