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十二国記023

时间: 2020-08-18    进入日语论坛
核心提示: とりみだした陽子の手から、老婆は手鏡を取りあげた。ごく落ちついた動作で鏡をのぞきこみ、それから陽子に手鏡を返す。「鏡が
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 とりみだした陽子の手から、老婆は手鏡を取りあげた。ごく落ちついた動作で鏡をのぞきこみ、それから陽子に手鏡を返す。
「鏡がゆがんてるわけじゃないようだね」
「でも、あたしはこんな顔じゃないんです」
 そういえば、声もなんだかちがう気がする。まるで別人になってしまったようだ。獣でもバケモノでもない。だが、しかし──。
「それじゃあ、あんたの姿がゆがんでるんだろうね」
 微笑《わら》いまじりの声に陽子は老婆をふりあおいだ。
「……どうして?」
 言って陽子はもう一度鏡を見直す。自分がいるべき場所に他人がいるのは妙な気がした。
「さてねえ。それはあたしなんかにはわからないね」
 老婆はそう言って、陽子の手をとる。腕についた小さな傷に、なにかを浸《ひた》した布を当てた。
 鏡のなかの自分は、よく見てみるとかすかに見なれた面影を残していた。ほんとうに、ごくかすかにではあったけれど。
 陽子は鏡をおいた。もう二度と見ないと決めた。鏡をのぞいてみるのでなければ、自分がどんな顔をしているか関係のないことだ。髪は鏡を使わなくても見えるが、それは染めたと思えば我慢できるだろう。べつに自分の容姿を気に入っていたわけではないが、この変化を二度と直視する勇気が陽子にはなかった。
「あたしにはわからないが、そういうこともあるんだろうさ。そのうち気分が落ち着いたら、なれるだろうよ」
 老婆はそう言って机から桶をおろすと、かわりに大きなどんぶりをおく。餅《もち》のようなものが沈んだスープが入っていた。
「おあがり。たりなければ、もっとあるからね」
 陽子は首を横にふった。とうてい食事をする気分ではない。
「……食べないのかね?」
「ほしくありません」
「口をつけてみると、意外におなかがすいていたりするものだよ」
 陽子はだまって首をふった。老婆はかるく息をついて、背の高い水差しのような土瓶《どびん》からお茶を注いでくれた。
「あっちから来たんだね?」
 聞きながら老婆は椅子を引きよせて腰をおろす。陽子は目をあげた。
「あっち?」
「海の向こうさ。キョカイを渡ってきたんだろう?」
「……キョカイって、なんですか?」
「崖の下の海だよ。なんにもない、まっくらな海」
 あれはキョカイというのか、と陽子はその音を頭のなかにしまった。
 老婆は机の上に紙を広げた。硯《すずり》の入った箱をおく。筆を取って陽子にさしだした。
「あんた、名前は?」
 陽子はとまどいつつも、おとなしく筆をうけとって名前を書きつけた。
「中嶋、陽子です」
「日本の名前だね」
「……ここは中国なんですか」
 陽子が聞くと老婆は首をかたむける。
「ここは巧国《こうこく》だ。正確には巧州国《こうしゅうこく》だね」
 言いながら老婆は別の筆をとって文字を欠きつけてゆく。
「ここは淳《じゅん》州|符楊《ふよう》郡、廬江《ろこう》郷|槙《しん》県|配浪《はいろう》。あたしは配浪の長老だ」
 書きつけられた文字は、すこしだけ細部がちがっている。それでも漢字にちがいなかった。
「ここでは漢字をつかうんですか?」
「文字ならつかうともさ。あんたはいくつだね」
「十六です。じゃ、キョカイというのも漢字が?」
「虚無の海と書くね。──仕事は?」
「学生です」
 陽子が答えると、老婆はかるく息をつく。
「言葉はしゃべれるようだね。文字も読めるようだし。あの妙な剣のほかに、なにを持ってる?」
 問われるまま、陽子はポケットの中をあらためた。ハンカチと櫛《くし》、手鏡と生徒手帳、壊れた腕時計、それでぜんぶだった。
 ならべてみせると、老婆はどういう意味なのか、頭をふる。ため息をつくようにして机の上の品物を着物の懐《ふところ》におさめた。
「あたし、これからどうなるんですか」
「さてね。そんなのは上の人が決めることだ」
「あたし、なにか悪いことをしたんですか?」
 まるで罪人のようにあつかわれている、と陽子は思う。
「べつに悪いことをしたわけじゃない。ただ、カイキャクは県知事へ届けるのが決まりでね。悪く思わないでおくれ」
「カイキャク?」
「海から来る来訪人のことさ。海の客、と書く。虚海のずっと東のほうから来ると、そう言われている。虚海の東の果てには日本という国があるそうだ。べつにたしかめた者がいるわけじゃないけど、実際に海客が流れてくるんだからそうなんだろうね」
 老婆は言って陽子を見た。
「日本の人間がときおりショクに巻きこまれて東の海岸に流れつく。あんたのようにね。それを海客というんだよ」
「ショク?」
「食べる、に虫と書くんだ。そうだね、嵐みたいなものかね。嵐とはちがって、突然はじまって、突然終わる。そのあとで海客が流れつくんだ」
 言って老婆は困ったような微笑《わら》いを浮かべる。
「たいがいは死体だけどね。海客は生きていても死んでいても上へ届けることになってる。上のほうのえらい人があんたをどうするか決めるんだ」
「どうするか?」
「どういうことになるのか、ほんとうのことは知らないよ。ここに生きている海客が流れついたのは、あたしのお祖母《ばあ》さんのとき以来のことだからね。その海客は県庁に送られる前に死んだそうだ。あんたは溺《おぼ》れずにたどりついた。運がよかったね」
「あの……」
「なんだえ」
「ここはいったい、どこなんですか?」
「淳州だよ。さっき、ここに」
 地名を書きつけた場所を示す老婆を制した。
「そうじゃありません!」
 キョトンとする老婆に向かって陽子は訴える。
「あたし、虚海なんて知りません。巧国なんて国、知りません。こんな世界、知らない。ここはどこなんですか!?」
 困ったように息をついただけで、老婆はそれに答えなかった。
「……帰る方法を教えてください」
 あっさり言われて、陽子は両手をにぎりしめる。
「ない、って」
「人は虚海を越えられないのさ。来ることはできても、行くことはできない。こちらから向こうへ行った人間も、帰った海客もいない」
 言葉が胸の底に落ちつくまでにすこしかかった。
「……帰れない? そんなバカな」
「むりだね」
「だって、あたし」
 涙がこぼれた。
「両親だって、いるんです。学校にだっていかなきゃならないし。ゆうべだって外泊だし、今日だって無断欠席だし、きっとみんな心配して」
 老婆は気まずそうに視線をそらす。立ちあがって、あたりのものをかたづけはじめた。
「……あきらめるしかないね」
「だってあたし、こんなところに来るつもりなんて、ぜんぜんなかった!」
「海客はみんなそうだよ」
「ぜんぶむこうにあるんです。なにひとつ持ってこなかった。なのに帰っちゃいけないの!? あたし……」
 それ以上は言葉にならなかった。声をあげて泣きはじめた陽子にはかまわず、老婆は部屋を出ていく。運び込まれたものが運び出されて、ひとすじの光さえなかった。
「あたし、家に帰りたい……!」
 体をおこしていることが困難で、寝台に身体を丸めた。そのまま声をあげて泣いて、やがて泣き疲れて気を失うように眠りについた。
 夢は、見なかった。
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