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十二国記076

时间: 2020-08-19    进入日语论坛
核心提示: 青海《せいかい》と呼ばれる内海は対岸が見えないほど広く、甲板に立てば潮の匂いがしてごく普通の海と変わりがなかった。浮濠
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 青海《せいかい》と呼ばれる内海は対岸が見えないほど広く、甲板に立てば潮の匂いがしてごく普通の海と変わりがなかった。浮濠《ふごう》を出発した帆船は明るい青の海を渡り、まっすぐに対岸の烏号《うごう》を目指す。浮濠から二泊三日の船旅だった。
 
 最初に見えた雁《えん》国の岸は、巧《こう》国の岸となんら変わるところがないように見えた。
 船が近づくにつれ、差異がわかる。整備された港と、その背後に控えた巨大な街。烏号の街はこれまで陽子が巧国で見たどんな街よりも大きかった。その景観はビルがないことをのぞけば陽子が故国で見た都市の景色といくらも違わない。甲板に集まった旅人たちの何割かが烏号を見るのがはじめてなのだろう、陽子と同じように目を見張っているのが印象深かった。
 烏号の街は港を一辺にすえてコの字型に城壁をめぐらせてあった。街は正面の山に向かってゆるやかにかけあがり、建物に施された極彩色の装飾が遠目に混じり合って落ち着いた薔薇《ばら》色を醸《かも》し出している。街の外周や中程には石造りらしい抜きん出て高い建物が見える。そのひとつは明らかに時計台で、ながめわたす陽子の目を見開かせた。
 港じたいも、阿岸《あがん》とは比べ物にならないほど整備されていた。
 停泊した船の数も阿岸とは比較にならない。港には活気があふれている。マストが林立し、白や薄い赤茶の帆がたたまれてアクセントをつけた風景は美しかった。つらい国を抜け出してたどりついた陽子にはこれ以上あかるい光景はないように見えた。
 
 船を降りるとそこは喧騒《けんそう》のただなかだった。忙しげに働く男たち、どんな仕事をしているのか走り回る子供たち、物売りの声や人々の声や、そんなもののすべてに浮き足立つようなリズムがある。
 船から降りながら、陽子は雑踏を見わたす。人をあかるい気分にさせる街だと思う。流れる人の誰もが生気のある顔をして、多分それは陽子も同様なのだろう。
 埠頭《ふとう》に降り立った陽子に声がかけられたのはそのときだった。
「陽子?」
 かけられるはずのない声に驚いてふり返って、陽子はそこに灰茶の毛並みを見つけた。細い髭《ひげ》が午《ひる》の陽射しを受けて銀に光って見えた。
「……楽俊」
 ネズミは人混みをかき分けて陽子のそばにやってきた。とまどうばかりの陽子の手を小さなピンク色の手がにぎる。
「よかった、ぶじについたんだな」
「……どうして」
「阿岸から船に乗りゃあ、必ず烏号につく。待ってたんだ」
「わたしを?」
 楽俊はうなずいた。動けない陽子の手を引く。
「阿岸でしばらく待ってたんだが、あんまり姿が見えねえんで先に渡ったのかと思ってな。ところがどうやらついた様子《ようす》がねえだろ。それで船がつくたんびにのぞいてりゃ見つかるんじゃねえかと思ったんだ。それにしても遅いんで、どうになかっちまったのかと思ったぞ」
 ネズミはそう言って陽子を見あげて笑う。
「なぜ、わたしを」
 楽俊は背中を丸めて頭を下げた。
「おいらがうかつだった。銭を陽子に渡すか、せめて半分もたせておきゃあ、よかったんだ。ここまで来るのはたいへんだったろう。すまなかったな」
「わたしは……楽俊を見捨てて逃げた人間なんだよ?」
「それもおいらの落ち度だ。まったくだらしがねえなぁ」
 ネズミはそう言って苦笑する。
「もちろん逃げてよかったんだ。衛士《えじ》が来て捕まったらどうする。逃げろって言って財布を渡してやれりゃあよかったんだが、すこんと意識を失っちまったもんで」
「……楽俊……」
「陽子はあれからどうなったんだろうと気になってた。ぶじでよかった」
「わたしは、やむにやまれず見捨てたわけじゃない」
「そうかい?」
「そうだ。誰かと旅をするのが怖かった。誰も信じるもんかと思ってた。こちらには敵しかいないんだと思ってた。だから」
 楽俊は髭をそよがせる。
「おいらは今も敵なのかい」
 陽子は首を横にふる。
「だったらいい。さあ、行こう」
「わたしは楽俊を裏切ったのに、うらめしいと思わないの」
「陽子をバカだとは思うが、べつにうらむ気にはなれねえなぁ」
「わたしは、止《とど》めを刺しにもどろうかと思った」
 手を引いて歩きかけた足が止まった。
「おいらはなぁ、陽子」
「……うん」
「実をいうと、おいて行かれたとわかったときにゃちょっとだけガックリきたさ。ちょっとだけな。陽子がおいらを信じてねえのはわかってた。おいらがなにかするんじゃねえかって、始終びくびくしてたのもな。でもそのうちわかってもらえるだろうと思ってたんだ。だからおいて行かれたとき、わかってもらえなかったんだなぁと思って、ちょいとだけ気落ちした。けど、わかってもらえたならいいんだ」
「良くないだろう。もうわたしなんかに、かまわなければいいのに」
「そんなのおいらの勝手だ。おいらは陽子に信じてもらいたかった。だから信じてもらえりゃ嬉《うれ》しいし、信じてもらえなかったら寂しい。それはおいらの問題。おいらを信じるのも信じないのも陽子の勝手だ。おいらを信じて陽子は得をするかもしれねえし、損をするかもしれねえ。けどそれは陽子の問題だな」
 陽子はうつむく。
「楽俊は……すごい……」
「おいおい。どうした、急に」
「わたしはすぐにすねたのに。味方なんかいないんだ、って」
「陽子」
 小さな手が陽子の腕を引っぱった。
「わたしはほんとうに、いたらない……」
「それはちがう」
「ちがわない」
「ちがうぞ、陽子。おいらはべつに見ず知らずの土地に流されて、追いかけ回されたわけじゃねぇ」
 陽子は自分を見あげてくる楽俊の顔を、しばらくじっと眺めた。楽俊は笑う。
「おまえはよく頑張ったよ、陽子。いい感じになったな」
「え?」
「船から降りてきたとき、すぐにわかった。なんだか目が素通りできねえんだもん」
「──わたしが?」
「うん。──さ、行こう」
「行こうって、どこへ?」
「県正のところだ。海客《かいきゃく》だって届を出しておけば、どうやら便宜《べんぎ》をはかってくれるらしい。上の人を訪ねるんなら手紙を書いてくれるとよ。陽子がなかなか着かないもんで、あちこちうろうろしてな。役所にも行ってみたんだ。そうしたらそこでそんなふうに言ってたぜ」
「すごい……」
 なんだか次々に扉が開いていく気が陽子にはした。
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