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十二国記112

时间: 2020-08-26    进入日语论坛
核心提示: その日、夕方になってたどりついたのは郭洛《かくらく》という街だった。河西《かさい》ほどもある大きな街だ。 前にもこちら
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 その日、夕方になってたどりついたのは郭洛《かくらく》という街だった。河西《かさい》ほどもある大きな街だ。
 前にもこちらの人間に連れられて旅をしたが、今度の旅はあのときにくらべると格段に貧しい旅になった。食事は屋台ですませ、宿は最低のところを取った。一泊が五十銭で大部屋を衝立《ついたて》で仕切ってつかう。それでも路銀は楽俊のおごりだから、陽子に不満の言いようがあろうはずがない。
 楽俊は陽子を弟だと言いとおした。人間の女が母親で問題ないものなら、陽子が弟でもかまわないのかもしれない。実際、それを疑われたことはなかった。
 
 当初は造作《ぞうさ》のない旅だった。楽俊は道中、いろんなことを話してくれた。
「四|大《だい》、四|州《しゅう》、四|極《きょく》で十二国」
「四大?」
 陽子はほとほとと歩いてくる楽俊を降り返る。
「そうだ。慶東《けいとう》国、奏南《そうなん》国、柳北《りゅうほく》国で四大国。別に大きいわけじゃねえが、こう呼ぶな。四州国が、雁《えん》州国、恭《きょう》州国、才《さい》州国、それからここ巧《こう》州国。四極国が、戴《たい》、舜《しゅん》、芳《ほう》、漣《れん》」
「戴極国、舜極国、芳極国、漣極国?」
「そうだ。それぞれに王がいて国を統治する。巧国なら塙《こう》王だな。王宮は喜《き》州|傲霜《ごうそう》にあって、翠篁《すいこう》宮っていう」
「傲霜? 街?」
 そうだ、といって楽俊は左手に見える山を示した。
 こちらは土地に起伏が多い。左手の彼方《かなた》には高い丘陵地帯が見え、さらにその向こうに高く険しい山地が薄く見えた。
「あの山のさらにずっと向こうだ。天まで届く山があって、それが傲霜山。山の頂上に翠篁宮があって、麓《ふもと》の一帯が傲霜という街だな」
「へえ……」
「王はそこから国土を統治する。州侯を任じ、天下に法律を発布して、民に国土を分配する」
「州侯はなにをするわけ?」
「州侯は各州を実際に統治するのが仕事だな。州の土地、人民、軍を管理する。法律を整備し、戸籍を整えて税を徴収し、災異《さいい》に備えて群を整える」
「実際にということは、王は実際に統治するわけじゃないんだ」
「王は統治の指標を示すのが仕事だな」
 よくわからないが、アメリカのような制度になっているのかしら、と思う。
「王は法律を制定する。これを地綱《ちこう》というんだ。州侯も法律を作れるけど、地綱に逆らうことはできねえ。その地綱も施予綱《せよこう》を犯して定めることはできない」
「セヨ──なに?」
「天が王に対して与えた、このようにして国を治めよというきまりだな。この世界を天幕にたとえるなら、世界を支える太い綱だ。だから天綱《てんこう》とも太綱《たいこう》ともいう。王といえども、これこれだけは守らなきゃいけねえ。太綱にふれないかぎり、王は自分の国を好きに動かしていい」
「……へぇ。その太綱は誰が決めたの。まさか本当に神さまでもないでしょう」
 さあ、と楽俊は笑う。
「大昔、天帝は九州四夷、併せて十三州を滅ぼし、五人の神と十二人の人とを残してすべてを卵に返したそうだ。その中央に五山を作り、西王母を主《あるじ》に据え、五山を取り巻く一州を黄海と変じ、五人の神を龍王として五海の王に封じたとか」
「神話だね」
「そういうことだな。そうして、十二人の人にそれぞれ木の枝を手渡した。枝には三つの実がなり、一匹の蛇が巻きついていた。この蛇がほどけて空を持ち上げた。それぞれが落ちて土地と国と玉座を作った。枝は変じて筆になったそうだ」
 陽子の知るいろんなタイプの神話とはずいぶん違う。
「この蛇が太綱を、土地は戸籍を、国は律を、玉座は仁道──すなわち宰輔《さいほ》を、筆は歴史を意味するんだとさ」
 言ってから楽俊は髭《ひげ》をはじく。
「そのころ、おいらはまだ生まれてなかったから、真偽のほどは知らねえけどな」
「……なるほど」
 中国の神話も子供向けの本でずっと昔に読んだはずだが、内容はほとんど記憶にない。それでも、これとはずいぶん違った内容だったことは確かだ。
「じゃあ、天帝が一番えらい神様?」
「さて、そういうことになるかなぁ」
「願いごとは誰にするわけ? 天帝でしょう?」
 願いごと、と楽俊は首をかたむける。
「──そうだな、子宝を願うなら、天帝に願うけど」
「ほかは? たとえば、豊作とか」
「さぁて、豊作を願うなら堯《ぎょう》帝かなぁ。そう言って堯帝をまつる連中もいるなぁ。そういうふうに言うなら水害をのがれるのは禹《う》帝だとか、妖魔をのがれるのは黄《こう》帝とか」
「いろいろいる?」
「うん。いろいろまつる連中もいるな、確かに」
「普通はしないの?」
「しねえなぁ。作物なんてのは、天気がよくてちゃんと世話してりゃ豊作になる。天気がいいか悪いかは、天の気の具合のもんだ。泣いても笑っても降るときには降るし、ひでるときはひでる。願ったところでしかたねえもん」
 陽子は少しきょとんとする。
「でも、洪水《こうずい》になったらみんな困るでしょ?」
「洪水にならないように、王が治水《ちすい》するんだろ?」
「冷害とか」
「そういうときに飢饉《ききん》にならないよう、王が穀物を管理するんじゃねえか」
 ──よくわからない。
 わからないが、なにかひどく陽子の知る人間とは違うのはわかった。
「じゃあ、試験に合格するように願ったり、お金が溜まるように願ったりもしないんだ」
 陽子が言うと、今度は楽俊がきょとんとした。
「そんなのは本人がどれだけ努力したかの問題だろう? お願いしてどうすんだ?」
「それは……そうだね」
「試験なんてのは勉強すれば受かるし、金なんてのは稼《かせ》げばたまる。いったいなにをお願いするんだ?」
 さあ、と苦笑してから、陽子はふいに笑みを凍《こお》らせた。
 ──そういうことか。
 ここには神だのみも運もない。だから、海客を売って小金を稼ぐチャンスがあれば、無駄にしない、というわけだ。
「……なるほど」
 つぶやいた言葉には、我ながら冷たいものがひそんでいた。それに気がついたのか、楽俊が陽子を見上げて、それからしょげたように髭を落とした。
 
 自分で自慢するだけあって、楽俊は博識で頭の回転も早い。たしかにこれほど利発で、それでも半獣だというだけで一生を母親の荷物にならなければならないのだとしたら、それはつらいことかもしれなかった。
 楽俊は陽子のことや日本の事情についても聞きたがったが、陽子はあえてなにも話さなかった。
 そして──襲撃を受けたのは、六日目のことだった。
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