下降してきた一羽を落とし、二羽を落とし、半数をしとめたときには街道は血の河になっていた。
墜落するように下降してきた五羽目の首を刎《は》ねて六羽目を避けると、陽子に爪をかけそびれた鳥は遠く背後にいた旅人を血祭りにあげて上昇していく。
陽子は着実に仕事をこなしていった。
血の臭いも骨肉を絶つ感触も、とっくの昔になじんでいたし、人の死体を見て心を動かされるほどの繊細さなど残っていない。
確実に敵を避けて敵を倒すこと、返り血をできるだけ避けること、陽子が気をつかうのはそれだけだった。
七羽を落として陽子は空を見あげる。八羽目が降りてこない。上空を旋回し、なにかを迷っているふうだった。
急速に暮れはじめた空は、さびた鉄の色。そこに黒く妖鳥の影がよぎる。
たとえジョウユウの力を借りても、空までは追っていけない。
「──降りてこい」
陽子はつぶやく。
ここへ、陽子の爪のとどく範囲へ降りてこい。
旋回する影をにらみながら、視野のはしで周囲を探る。
日の光のあるうちに敵があらわれたからには、あの女もかならずいるはず。──あの、金の髪の女。その金の色がどこかに見えないか。
近くにいれば捕まえる。今の陽子にはそれができる。捕まえたら目的をかならず聞く。言わないのなら片腕を落としてでも言わせてみせる。
そう思考する自分に驚愕《きょうがく》する。
まるで獣の本性があらわれたかのような、この獰猛《どうもう》さはどうだろう。それとも、血に酔ったのか……。
頭上の影がふいに動きの角度を変えた。降りてくる、と見てとって柄《つか》をにぎる手に力をこめる。振りあげるまもなく、鳥はもう一度角度を変えて、ふたたび宙を旋回する態勢に戻った。
「降りてこい!」
──妖魔のくせに命が惜しいか。
今日まで人を襲っておいて!
陽子は剣を振りあげる。足元に落ちた蠱雕の死体に突き刺した。
「来ないなら、仲間の死体を切り刻むが、いいか!!」
まるでその声が理解されたようだった。
旋回していた蠱雕がいきなり落下してくる。矢のように降ってくる鋭い鉤爪を死体から引き抜いた剣で一閃《いっせん》、剣花を散らして払い落とし、そのまま足を突き通す。
鳥が奇声をあげてはばたいた。風圧にあおられ、一緒に浮き上がりそうになる足を踏みしめて、抜いた剣を胴に向かって突き上げる。刺さった手応えを感じるやいなや、横飛びにのいて剣を引くと、一瞬前までいた場所に鮮血がしぶいた。
あとは造作もなかった。翼に力を失って墜落した鳥に、二撃三撃をくりだし、首を切り落としてとどめをさす。大きく剣をふって血糊《ちのり》を払ったとき、陽子の周囲に動くものはなかった。