四日目にようやく外に出る決心がついた。
進香は午前の短い時間だけに行われる。泰麒は壇上に座って、それをながめる。最初のうちこそ女仙《にょせん》ではない人間が珍しく、雑多な容姿や身なりをながめているだけで楽しかったが、すぐにただ座っているのが苦痛になった。
正午前には宮に帰ってもよかったが、ただ座っている時間の長いこと。
「……外に出てもいい?」
泰麒が聞くと、壇上の女仙《にょせん》は全員が嬉《うれ》しそうにした。彼女たちもまた退屈していたのだろう。
「もちろんですとも」
蓉可《ようか》は満面に笑みをたたえていた。
「ひょっとして、ぼくがそういうのを待ってた?」
「そうでもありませんけどね」
蓉可は笑う。
「ちょっと飽《あ》きていたのは事実です。なにしろ、今朝ももう六回は南瓜大夫《かぼちゃだいぶ》の顔を見ましたから」
女仙たちは一斉に忍び笑いを漏《も》らした。
進香《しんこう》の者のなかには、日に幾度となくやってくる者もあった。最初の日、一番めに入ってきた男がその代表で、毎日泰麒が戻るまでに十度は進香にやってくる。どこかの大夫らしいが、赤ら顔が丸くて南瓜に似ているというわけで、女仙たちによって密《ひそ》かに南瓜大夫の名を献上されていた。
「外に出てもだいじょうぶだと思う?」
禎衛《ていえい》も笑みを浮かべる。
「だいじょうぶですよ。あたしどももついておりますし、人も多い。いつぞやのような不心得者がおりましても、周りの者が先を争って助けてくれましょう。なにしろ誰もかれもが泰麒にいいところを見せたくてしようがないんですから」
蓬廬宮《ほうろぐう》に忍び込もうとした愚者《ぐしゃ》が、すでに十人ばかり蓬山《ほうざん》の外に放り出されていたが、女仙の誰もそんなことを泰麒に知らせるつもりはなかった。
「……そう」
「取り囲まれて挨拶責《あいさつぜ》めにされるでしょうけど、ここに座ってるほどの苦行じゃありません。ただ、早々にお言葉をかけてやらなければ、とんでもない長口上《ながこうじょう》を聞かせられるはめになりますよ」
「言葉? 話しかければいいの?」
「そうですね、もしも王がおられたら、古来のしきたりどおり、礼を」
「御前《ごぜん》を離れず、詔命《しょうめい》に背《そむ》かず、忠誠を誓うと誓約する──?」
禎衛はうなずく。
「はい」
「もしも、王じゃなかったら?」
「いまは夏至《げし》、至日《しじつ》ですから、中日《ちゅうじつ》まで無事で、とおっしゃるのが慣例です。中日でしたら、至日まで無事で、と」
「次の安闔日《あんこうじつ》まで無事で、ということだね」
「さようです」
「どちらか、わからなかったらどうしたらいいんだろう」
禎衛はさらに笑った。
「そんなことはございませんよ」
「汕子《さんし》も一緒《いっしょ》でいい?」
「隠伏《いんぷく》してなら。ただし、広場ではけっして呼び出さないでくださいまし。馬や騎獣を脅《おど》しますから」