「どうなさいました」
「いえ……」
李斎は泰麒の顔をのぞきこむ。
「公はやはり驍宗殿が怖くていらっしゃるのですか?」
「李斎殿は平気なんですね」
「敵にまわせば怖い方だろうな、と思います。……そうですね、緊張させられる方ではある。正直なところを申しあげると」
「……やっぱり?」
「恐ろしいほど覇気《はき》のあるお方だ。犬だと信じて気安くしていたら、なにかのおりに実は狼《おおかみ》だったと気づいてヒヤリとする、そういう感じがございますね」
それは泰麒の感覚をうまく表現しているような気がした。
「その感じはよくわかります」
李斎はつぶやいた。
「噂《うわさ》どおりの方のようだ。尋常《じんじょう》な覇気《はき》ではない。……王でないのが惜《お》しまれる」
「そうでしょうか」
泰麒には、驍宗はなにやら恐ろしすぎるように思われるのだが。
李斎はうなずいた。
「王というものは、人柄がよければそれでよいというものではありません。優《やさ》しすぎる王は国を迷わせるし、おくゆかしい王は国を乱れさせる。……本当に驍宗殿ならばよかったのですが」
「李斎殿はそれでいいんですか?」
見上げた泰麒に応《こた》えて、李斎は苦笑した。
「驍宗殿に会って、のこのこと昇山《しょうざん》した己《おのれ》が恥ずかしくなりました。──あの方はわたしなどとは器《うつわ》がちがう」