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十二国記197

时间: 2020-08-27    进入日语论坛
核心提示:「餌《えさ》はなにを使うんですか?」 泰麒《たいき》は罠《わな》をはっている李斎《りさい》に問うた。「玉《ぎょく》です。
(单词翻译:双击或拖选)
「餌《えさ》はなにを使うんですか?」
 泰麒《たいき》は罠《わな》をはっている李斎《りさい》に問うた。
「玉《ぎょく》です。|※[#「馬+芻」、unicode9a36]虞《すうぐ》は特に瑪瑙《めのう》を好みます」
 李斎は鶏《にわとり》の卵ほどもある瑪瑙を出してみせた。
「こ、こんなものまで食べるんですか?」
 李斎は笑った。
「猫のマタタビと一緒《いっしょ》です」
「へぇぇ……」
 李斎は瑪瑙を泰麒の掌《てのひら》にのせて、驍宗《ぎょうそう》を振りかえった。
「少し寄せ餌をまいておきましょう」
 李斎は天馬《てんば》に飛び乗る。
「寄せ餌?」
「瑪瑙の屑《くず》ですよ。──驍宗殿、公《こう》をお願いします」
「承った」
 飛燕《ひえん》は大きく跳躍して、飛びたつ勢いで駆《か》けていく。ようやく東の空がわずかに白む気配を見せていた。
 狩りは夜中が最良なのだという。日が高くなれば妖獣《ようじゅう》はあまり出歩かなくなるらしい。まだ夜明け前とはいえ、けっして条件がよいとはいえないこんな時間に、ふたりが狩をするのはひとえに泰麒の安全を考えてのことである。
 驍宗は岩の間に打った杭《くい》に縄《なわ》をかけると、軽く手を叩《たた》いて立ち上がり、焚《た》き火《び》のそばの岩の上に長々と寝そべった計都《けいと》のそばへ歩いていく。
「公、少し休まれぬか」
「はい」
 驍宗は計都にもたれて、自分の脇を示す。それでおとなしく横に座った。
「捕まえられると思いますか?」
「さて。運次第だろうな」
「計都もここで捕まえたんでしょう?」
 驍宗はうなずいた。
「安闔日《あんこうじつ》のたびに通って、六度目だったか」
「大変でした?」
「正直を言えば。罠《わな》にかけてからが、てこずらせる」
 複雑な形にめぐらされた鎖《くさり》と縄がどういうふうに働くのだろう、と泰麒はしばらく想像をたくましくする。
「──公はわたしが怖《こわ》いか?」
 唐突にきかれ、泰麒は驚いて驍宗を見上げた。
「……いえ……あの」
「ときおり、しりごみなさるふうをお見せになる。ひょっとして死臭でも染《し》みついていようか」
「そんなことはありません」
「では、わたしには麒麟《きりん》をしりごみさせるものがあるのだな」
 驍宗は薄く苦笑した。
「麒麟は仁《じん》の生き物だという。どうやらわたしには仁に厭《いと》われるものがあるらい」
「そんなことは……」
「武人ゆえ仕方がないか。仁とは遠い役目だから。……もしも公がわたしに欠けたものをご存じなら言ってはもらえまいか。自分のなにがいたらなかったのか、知っておきたい」
 驍宗の声は静かなばかりだった。淡々《たんたん》と夜に溶《と》けていく。泰麒は困惑した。
「……あの、そういうことではないと思うんです」
 驍宗は問うような視線を向けた。
「ひょっとしたら、目の色が……血を連想させて怖いのかも……」
「気配りはありがたいが、それはあまりわたしに対して親切ではない」
 静かに、それでも強く言われて驍宗の目を見返した。
「……うまく言えないんです」
「どんなことでも、かまわぬ」
「ぼくは、気が弱いんです。……きっとそうなんだと思うんです。覇気《はき》に乏《とぼ》しいとか、もっと自信を持つようにとか、女仙《にょせん》に言われるのですけど、どうしてもそういうふうなんです」
 驍宗は無言で泰麒を見ている。
「驍宗殿はとても自信にあふれた方です。覇気、って実を言うとよくわからないんですけど、きっとあれを覇気っていうのだろう、って。そういう……気配みたいなものをときどき強く表されるんです。──ぼくの言っているの、わかりますか?」
 驍宗はうなずいた。
「それでとても気後《きおく》れがしてしまうんです。羨《うらや》ましいのとはちょっとちがって」
 泰麒は計都《けいと》のそばの焚《た》き火《び》を見つめる。
「……火って、暖かくて明るいものですけど、あんまり強いと怖《こわ》いでしょう? そんなふうにすくんでしまうんです。……たぶんそういうことなんだと思います」
 自分でも自分の恐れがうまく理解できない。
「自分が情けなくなるわけじゃないんですけど、乱暴そうで怖いとか、そういう感じとも違います。血を見たときに怖いのとも、少しちがう──」
 言葉を探しても、見つけた言葉はどれも正しいとは思えない。もどかしくてもどかしくて、泣きたい気分になった。
「嫌《いや》な感じじゃないんです。大きな火は怖いですけど、きれいだなとかすごいな、って思うでしょう? それと一緒《いっしょ》なんです。すごいなって、思うんですけど、それと同時になんだかすくんでしまって、それで」
 ぽんと掌《てのひら》が頭に置かれた。
「お泣きになるな」
「すみません……」
「わたしこそ、詮無《せんな》いことをおききしてしまった。申しわけない」
「いえ……」
 驍宗は柔らかく笑って、泰麒の髪をなでつけた。
「公はよいお子だな」
「いいえ……そんな……」
「誠実でお優《やさ》しい方だ。戴国《たいこく》はよい国になろう」
「そうでしょうか」
 驍宗はうなずいて、髪をなでた腕《うで》を肩にまわしてそのまま焚き火に目を向けた。
 それきりなにも言わなかったので、計都にもたれる代わりに驍宗にもたれて、泰麒もまた黙《だま》りこんでいた。
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