ふたつの目を見据《みす》えたまま、もうどれだけの時間が経ったのかわからない。
額《ひたい》が流れた汗が鼻梁《びりょう》に沿ってながれていく、その感触。
ただひたすら浅い息を繰り返して。
(……額)
眉間《みけん》がいつからか疼《うず》く。熱い堅《かた》いものがそこに埋《う》めこまれている。
疼痛《とうつう》を訴える場所から落ちていくのは、本当に汗だろうか。
(もう、目が)
視力はとうに失っている。
押し寄せてくる力をたよりに相手の目があるはずの場所を見据えているだけ。
その力の方向を探る術《すべ》さえ失われようとしている。
(時間は……)
どれだけの時間が経った。
泰麒《たいき》はさっきからそれを無意識のうちに気にしている。
(あと……どのくらい)
なぜそれがきになるのかは、わからない。
ふいに抵抗を感じた。
まっすぐに前に向かっていた力が、なにかに遮《さえぎ》られるような感触。あるいは粘《ねば》りつくような感触。
(時間……)
なぜ時間が気になるのか。
さらに抵抗が増して、泰麒は目を見開いた。
なぜなのかを悟《さと》った。
それがわかった瞬間、額に亀裂《きれつ》が入った気がした。吸った息が鼻梁の奥から喉《のど》を焼く。
饕餮《とうてつ》の視線がゆらいだ。粘りが増す。力がうまく相手の力を押し戻せない。惧《おそ》れた瞬間がやってくる。
──生気が死気に転じるのだ。
「驍宗《ぎょうそう》殿……」
驍宗はいるのか、いないのか。いるとするならどこにいるのか。
「逃げてください……」
きっともう、いくにらももちこたえられない。
静かな声が背後から聞こえた。
「……おそれながら、できません。足が動きません」
小さな麒麟《きりん》は目を見開いた。
気が逸《そ》れる。
──まさに死気に転ずる一瞬。
「傷を負いました。動けません。──お助けください!」
萎《な》えたに見えた覇気《はき》が一瞬のうちに再燃した。