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十二国記202

时间: 2020-08-27    进入日语论坛
核心提示: 以前よりもずっと危うい均衡《きんこう》で、その場の力は膠着《こうちゃく》した。(汗) 額《ひたい》を伝い落ちていくもの
(单词翻译:双击或拖选)
 以前よりもずっと危うい均衡《きんこう》で、その場の力は膠着《こうちゃく》した。
(……汗)
 額《ひたい》を伝い落ちていくもの。
(ほかに……方法がない)
 驍宗の気配を感じる。身動きひとつなく、それでも自分に注がれている視線。
(捕《と》らえるしか、ない)
 驍宗は動けない。泰麒もまた、動くことはできない。
(下れ……)
 初めて念じた。
(使令に下れ……)
 ふいに闇《やみ》が身動きをした。──その気配を感じた。
 押し寄せてくる力がゆるんだ。
 生まれる、わずかな余裕。
(使令に、下れ)
 さらに相手の力が弱まった。
 瞬《まばた》きをする余裕。同時に汗で濁《にご》った視野が澄《す》む。
 凶器を振り上げたまま硬直した相手の姿が見えた。
 強い力を放つ双眸《そうぼう》はそのまま、闇は形を変え始めた。
 それは震え、萎縮《いしゅく》し、巨大な空洞を満たすほど巨大な鬼に転じた。
 恐怖は感じなかった。さらに余裕が生まれた。金属で固めたように張り詰めた自分の四肢《しし》をようやく意識した。
「下れ……」
 闇《やみ》はさらに凝縮《ぎょうしゅく》するようにして、あまりに大きな牛の姿へ。
 さらに、虎《とら》へ。
 さらに、大鷲《おおわし》へ。
 さらに、大蛇《だいじゃ》へ。
 千変万化《せんぺんばんか》。──その尋常《じんじょう》でない力の証《あかし》。
 やがて目の前に端座した小型の犬が姿を現した。
「……使令《しれい》に下れ……」
 大|天井《てんじょう》を指した手で天を受ける。
 ふと、視線を押し戻してくる力が失せた。抵抗を失ってなにかがまっすぐに駆《か》けていく。天を受けた掌《てのひら》から巨大な力が流れ込んできて束縛《そくばく》を引きちぎって駆け抜けていく。
「──鬼魅《きみ》は降伏《こうぶく》すべし、陰陽《おんみょう》は和合《わごう》すべし」
 掌から音の洪水が脳裏に押し寄せてきた。
 ゴウ。郷、剛、噛、号、業、豪、強。
 音が渦巻いて脳裏に形を描く。
 人。あそぶ。出る。風に。旗、なびく。鞭《むち》、打ち。叩《たた》く、水。──あふれて。
「急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》──!!」
 ただひとつの直感。
「下れ! ──傲濫《ごうらん》!!」
 犬が立ち上がった。
 半《なか》ば朦朧《もうろう》としながら芝犬のようだ、と思う。すると闇は、歩くにつれてさらに縮まり、茶色の毛並みを現した。
 子犬なら、もっといいのに。足の先だけが白い犬。
 ──思うと本当にそのように変じた。
 泰麒の足元にそれがやってきて再び端座したとき、それは故国で見た芝犬に寸分|違《たが》わなかった。
「……傲濫」
 身を屈《かが》めると、子犬は泰麒を見上げて尾を振る。手を差し出せば、温かな舌で指先をなめた。
 抱きあげて抱きしめる。すとんと足腰が萎《な》えて、泰麒はその場に座りこんだ。
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