「王が玉座にお進みになったら、叩頭礼《こうとうれい》を。そういうしきたりですので」
春官長《しゅんかんちょう》に念を押されて、泰麒《たいき》はうなずく。
「はい」
即位の儀がやってきた。
鴻基山《こうきさん》の麓《ふもと》、首都・鴻基。そこにある国府の正殿がその舞台である。
すでに正殿前の巨大な広場には、立錐《りっすい》の余地なく民があふれている。即位の儀とは、他国の賓客《ひんきゃく》、および国民に新王を披露《ひろう》するための儀式なのである。
控《ひか》えの間にいても、外の歓声が聞こえてくる。誰もが新王即位を喜んでいるのだと思うと、なにやら嬉《うれ》しい。
昨日、泰麒は初めて白圭宮《はっけいきゅう》を下りて鴻基の街を見た。驍宗《ぎょうそう》と別れて陸路|蓬山《ほうざん》から帰国した随従《ずいじゅう》たちにあい、同行して帰ってきた計都《けいと》に会った。即位の儀に訪れた承州候《じょうしゅうこう》に随従して、鴻基を訪れていた李斎《りさい》と飛燕《ひえん》にも再開できた。
その李斎と驍宗と、瑞州をひとめぐりしたのだ。
鴻基山の非常識に高いことに驚き、街をひそかに見物し、玉泉《ぎょくせん》という不思議《ふしぎ》な泉も見物した。なにからなにまで珍しいものだらけで、泰麒は目を丸くしどおしだった。
「昨夜はちゃんと眠れたか?」
衣服を女官《にょかん》に調《ととの》えられながら、驍宗は問う。
「はい。くたびれていたので、寝床に入るなり寝てしまいました」
「それはよかった」
「おかげで、覚えていた口上をすっかり忘れてしまいましたけど……」
泰麒が告白すると、驍宗は声をあげて笑う。
「どうせ、わたしにしか聞こえぬ」
「驍宗さまに聞こえるかどうかもあやしいですね」
泰麒は表の声に耳を傾けた。驍宗もまたそれにならってから、笑みをうかべた。
「まったくだ」