「よう、ちび」
泰麒はあわてて背後を振りかえった。
「延台輔《えんたいほ》」
延麒《えんき》は、あわてふためいて一礼する女官に軽く手を振って追い払う。
「近所のよしみで見物にきたぞ」
驍宗が苦笑して礼を返した。
「わざわざのお越し、いたみいる」
「ありがとうございます、延台輔。──延王は?」
「貴賓席ですっかりできあがってる。──あがってないか?」
「……少し」
泰麒が正直に告白すると、延麒はやれやれというように笑った。
「おまえ、本当に気が小さいな。ナリも小さいけど」
驍宗がさらに苦笑した。
「蒿里《こうり》はまだ十《とお》ですから」
延麒は顔をしかめる。
「前にも思ったが、趣味のいい名前だな」
泰麒は少し赤くなる。
「……本当に蒿里というんです。草冠《くさかんむり》はありませんけど」
「へぇ」
「そういえば、延台輔も蓬莱《ほうらい》のお生まれなんですよね。お名前はなんとおっしゃるんですか?」
「六太《ろくた》。姓はねぇよ。そんな結構なご身分の生まれじゃねぇし」
泰麒は首をかしげた。昔は誰にでも姓があったわけではないそうだが、それでは延の麒麟《きりん》はそんなに昔の生まれなのだろうか。
「いつのお生まれですか?」
延麒はちょっと天井《てんじょう》を見る。
「おまえが生まれる五百年ばかり前」
「ええ?」