返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

十二国記228

时间: 2020-08-29    进入日语论坛
核心提示: 世界の果てには虚海《きょかい》と呼ばれる海がある。この海の東と西に、ふたつの国があった。常には交わることなく、隔絶され
(单词翻译:双击或拖选)
 世界の果てには虚海《きょかい》と呼ばれる海がある。この海の東と西に、ふたつの国があった。常には交わることなく、隔絶されたこの二国には、ともにひとつの伝説がある。
 ──海上遥か彼方《かなた》には、幻の国がある、と。
 そこは選ばれた者だけが訪ねることのできる至福の国、豊穣《ほうじょう》の約束された土地、富は泉のように湧《わ》き、老いも死もなく、どんな苦しみも存在しない。一方の国ではこれを蓬莱《ほうらい》と呼び、もう一方の国ではこれを常世《とこよ》と呼んだ。
 互いに異界に隔絶されたその二国、蓬莱国と常世国の双方で、ひとりの子供が目を覚ました。──ともに深夜のことである。
 
      ※
 
 彼はふと、話し声で目を覚ました。暗闇《くらやみ》の中、ぼそぼそと声が這《は》う。父親と母親の声が家の外から聞こえたのだ。
 家といっても、四本の棒の間、壁と屋根の代わりに筵《むしろ》を張っただけの粗末なものだ。寝床は土の上、虫の音《ね》が盛んな頃だけれども、くるまる布さえない。間近の兄姉の体温だけがよすがの寝床だった。以前住んでいたのはもっとましな家だったが、その家はもうない。焦土《しょうど》と化した都の隅で灰になってしまった。
「……しかたない」
 父親の声は低い。母親は、でも、と口ごもった。
「そりゃあ、一番下だけれども、あの子は聡《さと》いから怖《こわ》い」
 彼は闇の中でぴくりと体を震わせる。自分のことを話しているのだと分かって眠気《ねむけ》が飛んでいった。
「だが……」
「分別もあるし、知恵もまわる。同い年の他の子は、まだろくにしゃべれもしないっていうのに。まるでどこかから下されたみたいで」
「そりゃあ、そうだが。しかし、それにしたってまだまだ子供だ。きっとなにが起こったか分からんさ」
「そうじゃなく。あの子を死なせたら祟《たた》りそうで」
 子供は襟《えり》をかきあわせる。暗闇の中で小さく丸くなって眠ろうとした。ふたりの声を聞いていたくなかった。彼は生まれてまだ四年と少ししか経《た》っていなかったけれど、何の話なのか分かってしまったので。
 声は続いていたが、彼は強《し》いて聞かないようにした。意識から追い出して、無理にも眠りに落ちていく。
 
 父親が、坊、と顔をのぞきこんできたのは、その二日後だった。
「お父《とう》は用事に行く。坊もいっしょに行くか?」
 どこに、とも、なんで、とも彼は訊《き》かなかった。
「うん。いく」
 そうか、と父親はどこか複雑そうな表情で手を差し出した。彼はその手をしっかり握った。大きな手のごつごつした感触に包まれて、家を離れ、一面の焼け跡を歩いた。衣笠山《きぬがさやま》からさらに奥に分け入り、斜面を何度も登り降りして、さすがの彼もどこから来たのか分からなくなった頃に、父親はやっと手を放した。
「坊、ここにいろな。すぐに戻る。待ってろ」
 うん、と彼はうなずく。
「いいか、動くんじゃねえぞ」
 うん、ともう一度うなずいて、何度も振り返りながら林を去っていく父親の背を見送った。
 ──動かない。かならず、ずっとここにいる。
 彼は拳《こぶし》を握って、父親が姿を消した方向を見つめていた。
 ──ぜったい、家にかえったりしないから。
 その誓いのとおり、彼はその場を一歩も動かなかった。夜になればその場に眠り、ひもじくなれば手の届く範囲の草をむしって根を掘った。飲むものは夜露でこらえた。三日目には、動きたくても動くことができなかった。
 ──大丈夫、ぜったい、もどったりしない。
 戻れば両親が困ることを、彼は理解していた。
 都は燃えつき、あたりは死者の骸《むくろ》で敷き詰められた。父親を雇《やと》っていた男は西軍の足軽《あしがる》に殺された。職もなく、家もない一家がこの先生きていくためには、働くこともできず、ただ食べるだけの子供を、ひとりでも減らさなくてはならないのだ。
 彼は目を閉じ、意識が混濁するにまかせた。眠りに落ちる前に獣が草をかき分けるような音を聞いた。
 ──ここで、待ってる。
 一家がなんとか生き延びて、落ちついて、幸せになって、それでふと彼のことを思い出して、弔《とむら》いのためにやってきてくれるのを待っているから。
 いつまでだって、待っているから。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%