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十二国記229

时间: 2020-08-29    进入日语论坛
核心提示: 彼は夜中に目を覚まして、人の話し声を聞いた。眠くて眠くて、どんな話だかは聞き取れなかった。ただ、母親がみんなから責めら
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 彼は夜中に目を覚まして、人の話し声を聞いた。眠くて眠くて、どんな話だかは聞き取れなかった。ただ、母親がみんなから責められているのだということだけが分かった。助けてあげなきゃ、と思いながらまた眠りに引き込まれてしまった。
 その翌日、母親に手を引かれ、子供は里《まち》を出た。
 彼には父親がいない。母親は、父親は遠くの国へ行ってしまった、と教えてくれた。住んでいた廬《むら》が焼け、母親と彼は里に行って、里の隅の土の上で眠るようになった。たくさんの人間が集まっていたが、ひとりずつ欠けていって、やがてはほんの数人になった。子供は彼だけだった。
 母親を除く大人《おとな》たちは、彼に冷たかった。いつも邪険に殴《なぐ》られ、冷たい言葉を浴びせられた。特に彼がひもじいというと、必ずそうなのだった。
 母親は彼の手を引き、声を殺して泣きながら、焼けただれて荒れ果てた田圃《たんぼ》の中の道を歩いた。やがて山に入り、林の中を分け入っていった。こんなに遠くまで、彼は来たことがなかった。
 林の中で、母親はやっと彼の手を放した。
「ちょっとここで休もうね。……水はほしくない?」
 喉《のど》が渇いていたので、彼はうなずいた。
「いま水を探してくるから。ここで待っていておくれねえ」
 歩くのにも疲れていたので、母親がいなくなるのは不安だったけれど、うなずいた。母親は何度も彼をなでて、そうして突然離れると、小走りに林を駆けていった。
 彼はその場に座り込み、やがて母親が帰ってこないのに心細くなって、母親を探して歩き出した。母親を呼びながら、つまずきながら林をさまよったけれども、彼には母親の行方《ゆくえ》も帰り道も分からなかった。
 寒かった。ひもじかった。いちばん辛《つら》かったのは喉が渇いたことだった。
 泣きながら母親を探して歩いた。林を出て海岸に沿って歩き、やがて日も暮れる頃に彼はやっと里を見つけた。母親を探して里の中に駆けこんだが、見慣れない人々に出会っただけだった。どうやら違う里に来てしまったようだと、それだけが分かった。
 男がひとり、彼の側に寄ってきた。泣きじゃくる彼から事情を聞いて、頭をひとつなでてくれ、水と食べ物をほんの少し与えてくれた。
 それから男は周囲の人々と目を見交わし、彼の手を引いた。彼がこんど連れていかれたのは海の縁《ふち》だった。青い海の向こうに、壁のように高い山がずっと続いているのが見える。崖《がけ》の突端まで来ると、男はもう一度彼の頭をなで、ごめんよ、とつぶやいて、彼を崖から突き落としたのだった。
 
 彼が次に目を開けたとき、暗い穴の中にいた。潮の匂いがぷんとして、それに混じって嗅《か》ぎ慣れた腐臭がした。それは死体の臭いだ。彼はあまりにそれに慣れていたので、特に怖《こわ》いとも思わなかったし、不審も感じなかった。
 濡れた体がただ寒く、ただ寂しかった。近くで何かが身動きする音がしたので、そちらを見やったが、暗闇のせいで、小山のような影が見えただけだった。
 彼は泣いた。怖かったのはもちろんだが、やはりなにより寂しかったのだ。
 ふいに腕になま温かい息がかかった。彼がぴくりと震えると、次いでふわふわしたものが腕をなでた。鳥の羽毛の手触りにそれはよく似ている。この暗い場所には何か大きな鳥がいて、それが彼の様子をしきりにうかがっているのだった。
 驚きのあまり彼が体を硬直させていると、それは温かな羽毛を押し当ててきた。まるでくるむようにして翼の中に抱え込む。あまりにそれが温かかったので、彼は羽毛にしがみついた。
「阿母《おかあさん》……」
 ただただ母親を呼んで泣いた。
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