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十二国記237

时间: 2020-08-29    进入日语论坛
核心提示:「──俺とお前が側近だからな。ひょっとしたら王は、単に減らず口をたたく奴が好きなだけなんじゃないのか?」 帷湍の言葉に朱
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「──俺とお前が側近だからな。ひょっとしたら王は、単に減らず口をたたく奴が好きなだけなんじゃないのか?」
 帷湍の言葉に朱衡は笑う。
「本当に、そうかもしれません」
 笑ってから、朱衡は表情を改めた。道をやってくる足音を聞いたからである。
 やってきたのは冢宰《ちょうさい》とその府吏《げかん》、朱衡も帷湍も礼に従って道を譲《ゆず》り、軽く頭を下げて冢宰らを通す。俯《うつむ》いた頭上にその声は降ってきた。
「はて、この道は内殿に向かうと思ったが」
 これ、と府吏のひとりが朱衡らに声をかけてきた。
「こんな所で何をしておられる。まさか道に迷われたのか?」
 朱衡も帷湍も返答しない。内殿にまで昇殿を許されている官は限られている。二人の官位では本来、内殿に入ることを許されない。ふたりは王から直々に特権を得ているが、これは破格の待遇なのである。特待を妬《ねた》んで皮肉を言うものなどいくらでもいる。朱衡も異端もすでに慣れていた。
「これから内殿に向かわれるのか?」
 は、と帷湍が短く返答すると、冢宰らは聞こえよがしに溜め息をついた。
「やれやれ、では、主上は御政務どころではございますまい」
「これからお気に入りとお遊びの時間じゃ」
「お邪魔をしてはお叱《しか》りがある。まったく、いつになったら御政務にお就《つ》きになるやら」
「誑《たぶら》かす下郎がおるからのう」
 俯《うつむ》いたふたりの前を嘲笑《ちょうしょう》が通り過ぎる。おそらくは東の府邸《やくしょ》へ戻るのだろう、引き返す足音が絶えるのを待って帷湍が顔をあげた。建物の間を縫う石畳を見やって低く吐き捨てる。
「……どっちが下郎だ。梟王から位を買った奸臣《かんしん》どもが」
 朱衡は苦笑した。奸臣という言い方は不当ではない。梟王が道を失い、政務に興味を示さなくなったのをいいことに、官は専横を極めた。あるものは金で官位を買い、そうして支払った以上のものを国庫からかすめ取った。梟王の歓心ほしさに暴虐を諌《いさ》めるどころか煽《あお》りたて、みすみす国土を荒廃せしめた。
「皮肉を言うぐらいしか能がない連中だから、よしとしてあげなさい」
「王が遊びほうけているのは、俺たちが唆《そそのか》しているせいだと思っているのだぞ! あいつが放蕩者《ほうとうもの》だから俺たちまでが悪《あ》し様《ざま》に言われる」
 歯噛みする帷湍に対して、朱衡はなおも苦笑するにとどめた。
「悪し様に言われるのは、しかたのないことでしょうねえ」
 帷湍は遂人、位で言えばたかだか中大夫《ちゅうだいぶ》にすぎない。冢宰は候《こう》、四位も下の遂人ふぜいが様々の特権を与えられ、冢宰の自分が王に面会するのにもいちいち取り次ぎを頼まなくてはならないのだから、腹に据えかねて当然だろう。朱衡などは帷湍のさらに下、下大夫《げだいぶ》にすぎない。
「しかたないですます気か。あのうつけ者をなんとかしろ!」
「わたしに言われても困ります」
「だいたい、成笙《せいしょう》が悪い。いちばん近くにいるんだから、首根っこ捕まえて玉座《ぎょくざ》に括《くく》りつけておけばいいんだ」
 王の身辺警護の者にまで悪態をつく帷湍を、朱衡はやや呆《あき》れた気分で見やった。
「そんなに腹を立てるほどのことですか?」
「お前は腹が立たんのか。王に遊興をすすめる賊臣《ぞくしん》のように言われているのだぞ! あげくには龍陽《りゅうよう》の寵《ちょう》などと!」[#入力者注:「龍火の寵」とは男の家臣を愛妾として可愛がること]
「それは、お疲れさまです」
「莫迦野郎《ばかやろう》! お前がそう言われているんだ!」
 朱衡は笑って、次いで声を低める。
「口さがない連中には言わせておきなさい。そろそろ主上は諸官の整理を考えておられます」
 帷湍は石段を上る足を止めた。
「いよいよか」
「内政はほぼ落ちついて、行くべき方向は定まっています。道は敷かれた。あとはただ輛《くるま》を走らせるだけです。これまでに諸官整理にまでは手が回らなかったけれど、どうやら諸侯諸官をすげ替えてもいい時期にきたようです」
 州侯および諸官を任じたのは梟王である。新王|践祚《せんそ》の際にこれを全部|罷免《ひめん》し、新官を登用してもよかったが、それに時間を割《さ》かれることを惜《お》しんで、あえてそのまま残してある。州侯の実権だけは制限し、各州に牧伯《ぼくはく》を置いて監督させ、官のほうは側近だけを厳選してしのいできたが、いつまでも梟王のもとで阿諛《あゆ》と追従によって安逸を貪《むさぼ》り、民を虐《しいた》げることに荷担していた連中をそのままにはできない。
「朝廷は荒れます。罷免されずにすんだと多かを括《くく》っていた連中は、あわてふためいて暗躍を再開するでしょう。どこでどう足元をすくわれるやら分からない。しばらくは愚痴《ぐち》を控えたほうが」
「……二十年か。よく保《も》った。あんな連中でも多少は心を入れ替えたらしい」
「なに、国庫から利をくすねようにも、くすねる財がなかっただけですよ。ですが、最近妙な動きをする官が増えましたね」
「冬の間、土の中にもぐってやり過ごしていた連中が、ようやく冬を過ぎて動き出したというわけだな」
 帷湍は付近の建物に目をやった。
「長い冬だったが……」
 雁国民悲願であった新王|登極《とうきょく》のあの頃、まだ玄英宮は金銀の輝く壮麗な宮城《きゅうじょう》だった。いまのこの宮には華美なところがない。幽玄《ゆうげん》の宮などと言われているが、王が全ての装飾、金銀や財宝を──それこそ玉座《ぎょくざ》の石まで──はがして売り払ってしまった。それほど雁は困窮《こんきゅう》していたのである。建物の数も半分近くに減った。王が解体し、材木から石材に至るまで売り払ってしまったのだ。関弓山の峰に続く屋根の黒色だけが、あの頃と変わっていない。
 王宮は初代の王が天帝から賜《たまわ》ったという。ゆえに憚《はばか》り、歴代の王は王宮に手を加えることはしても、取り壊したりはしてない。王朝の歴史そのものである建物の、装飾を身ぐるみはいだのみならず、解体して売り払うというのだから官の狼狽《ろうばい》はただごとではなかった。
 やれ、のひと言で命じた王は、梟王の元で国庫の富をかすめ取り、私服を肥やした連中を放置した。諸侯諸官を解任し、その私財を押収することは可能だったが、あえてそれをしなかった。そんなことをしている余裕さえなかったのだ。荒廃した国土から収穫があげられるよう、地を治めるほうが先だった。
 田畝《でんぱ》は焦土《しょうど》と化した。そこに鍬《くわ》を入れても、耕した民の生活を支えられるほどの実りがあるようになるまでに二十年がかかった。王宮の御物《ぎょぶつ》を他国に売り払い、蔵の中の物という物、それこそ兵の小太刀にいたるまでを売り払って、かろうじて食いつないできた。
 ──預けておいたと思えば良い。ああいった連中は貯《た》めこむことに熱心だから、さほど損失はないだろう。派手に使っている者だけを取り締まれ。時が来れば一気に返済してもらう。
 王はそういった。その時が来たのだ。
「のんき者だが、|莫迦ではない」
 帷湍が低く言うと、朱衡は軽く笑った。
「有能だがでたらめだ、ぐらいにしておいてあげなさい」
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