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十二国記249

时间: 2020-08-29    进入日语论坛
核心提示: 元州州侯の城は関弓と同じく、頑朴山と呼ぶ凌雲山《りょううんざん》のその山頂にある。乗騎らは頑朴山の山腹にある岩場に降り
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 元州州侯の城は関弓と同じく、頑朴山と呼ぶ凌雲山《りょううんざん》のその山頂にある。乗騎らは頑朴山の山腹にある岩場に降り立ち、そこから六太は雲海の上に連れていかれた。元州城である。
 広間には数人の官の他に、ひとりの男が待っていた。外見はまだ若い。赤と言っていいような濃い茶の髪をしていた。
 六太の両腕は左右の男に掴《つか》まれている。その後を更夜と妖魔がついてくる。妖魔は依然、その嘴《くちばし》に赤子を含んでいた。とぎれとぎれの泣き声が軽く閉じた嘴の中から響いている。
 斡由は元州候の息子だった。官は州侯を補佐して州六官を束ねる令尹《れいいん》、位は卿伯、その斡由は州侯の座について六太を迎えた。
「更夜、足労だったな」
 斡由は暖かな声でねぎらい、席を立つ。壇上から下りて六太を代わりにそこに上がらせ、入れ替わるように階下に膝《ひざ》をつき、深く叩頭《こうとう》した。
「台輔《たいほ》には申しわけなく存ずる」
 六太は虜囚《りょしゅう》だ。そう覚悟していたものを、いきなり頭を下げられて、六太はややうろたえた。
「……斡由か」
 六太の問いに、斡由は顔を上げた。
「州侯は臥《ふ》せっておりますゆえ、令尹の拙《せつ》が御前を穢《けが》す無礼をお許しください。卑怯《ひきょう》非道《ひどう》なお誘いは承知の上、お詫《わ》び申しあげる言葉とてございませんが、なにぶんご容赦《ようしゃ》を」
「……何を企《たくら》んでいる。目的は何だ?」
「とりあえず、漉水《ろくすい》、と申しあげましょう」
 六太は眉《まゆ》をひそめた。
「──漉水」
「漉水は元州を貫く大河。梟王《きょうおう》が堤《つつみ》を切って以来、下流の他県は雨期のたびに襲う水害に泣いております。幸いこれまで流域の里櫨《まちまち》が壊滅《かいめつ》することはありませんでしたが、その好運がいつまで続くか。早急に大がかりな治水《ちすい》工事が必要ですのに、王はそれをご裁可くださらない。元州でそれを行おうにも、王は州侯から治水の権を取り上げておしまいです」
 六太は唇を噛《か》んだ。──自業自得だ。いまごろ尚隆らは慌《あわ》てふためいているだろうが、身から出た錆《さび》というものだろう。
「そもそも各州は州侯に下された治領のはず。梟王より候を賜《たまわ》った州侯がお目に障《さわ》るのは重々承知しておりますが、権までをお取り上げになるとはいかがなものか。国の治世だけでは国土の端々《はしばし》までお目がお届きになりますまい。実際、雨期も近いというのに、漉水は荒れたまま」
 斡由は膝《ひざ》をついたまま六太を見上げる。
「再三の奏上にもお耳をお貸しくださらない。思い余ってこのような手段に及びました。ご立腹とは存ずるが、台輔ばかりは拙の奏上をお聞きください」
 ──それは危険だ、とかつて六太は尚隆に進言した。
 王の統治だけでは国土の隅々にまで治は行き届かない。ゆえに権を分割し、州侯をおいて州の統治を委《ゆだ》ねているのだ。いくら先帝が任じたにしろ、彼らから権を取り上げて果たして王ひとりで九州の統治がなりたつか。
 言ったが、聞き入れてはもらえなかった。尚隆はおおむね、やりたいようにやるのだ。尚隆は王、何かを強制できるものもいない。側近を集めるといっても手足として使うだけ。朱衡《しゅこう》や帷湍《いたん》は側近中の側近だが、彼らが何かを言ったからといって、尚隆にその気もないことを行わせることなどできはしない。
 今日までいったい、六太がどれほどの進言を行い、諫言《かんげん》を行い、それが無視されてきたか。王は国権を束ねる。国の最高権力者だ。その王が何かをしようと決意すれば、とめる方法はないに等しい。梟王の暴虐《ぼうぎゃく》を誰もとめることができなかったのと同様に。
 六太は深く息をついた。
「王にそのように申しあげ、処分のなきようお願いしよう。──そう言えば帰してもらえるのだろうか?」
 斡由は平伏した。
「おそれながら、台輔にはいましばしご不遇をご容赦《ようしゃ》願いたく」
「──王が真面目《まじめ》に取り合ってくれるまでの人質《ひとじち》ってわけだ」
「申しわけございません」
「……分かった」
 斡由は驚いたように顔を上げた。
「お聞き届けいただけるのでございますか」
「うん。斡由の言い分はもっともだと思う。手段は非合法だが、あの莫迦《ばか》に言うことを聞かせるには他に手がない。しばらく厄介《やっかい》になる」
 斡由は感謝をこめたまなざしを向け、深く深く叩頭《こうとう》した。
「ありがたく存ずる」
「うん」
 六太はつぶやいて、斡由の背後に控えた更夜を見る。
「これが、更夜の主人か」
 更夜はただ笑んだ。
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