そう言ったのは蓬山《ほうざん》の女仙《にょせん》だ。女仙もまた寿命のない生き物、昇仙《しょうせん》すれば歳《とし》がとまる。少春《しょうしゅん》というその女仙は十二かそこらに見えた。
──あたしの廬《むら》は梟王《きょうおう》に滅ぼされたんです。少しの大人《おとな》と少しの子供だけが残った。でも全部はとても食べていけないから。それであたしは王母廟《おうぼびょう》に行ってお願いした。仙に召し上げてくださいって。残った子供のなかで、あたしが一番大きかったんです。
西王母《せいおうぼ》を祀《まつ》る廟は荒れ果てていた。折れた柱を渾身《こんしん》の力で支えて誓願した。死ぬまで柱を離しません。何かあっても決して。飲食をたち、震える手足で不眠不休で柱を支え続けること二日。王母への賛歌一千唱で五山《ござん》からの迎えがあった。
──少しでも雁の役に立てればいいと思った。それで延麒《えんき》のお世話ができるんですから、あたしは果報者ですね。
──延麒が健《すこ》やかにお育ちになって、やがて王を選ばれる。延|台輔《たいほ》と呼ばれて雁にお下りになって、宰輔《さいほ》として王を助け、本当に雁を救ってくださる。
それは違う、と六太《ろくた》は遠くから叫んでいる。
「王が国を助けるのか? 本当に民を助けるのか?」
戦火を呼びこむだけだ。民を投げこんで火を燃やし続ける。それが王だ。
「……そんなのは嘘《うそ》だ、少春! 王さえいなければ、民はかつかつでもやり直せる。王がいれば本当に雁は滅んでしまう。誰ひとり生きてゆけない国になるんだ」
──雁をお願いいたしますね。
「おれや少春のような子供を、これ以上作ってはならないんだ! 王を登極《とうきょく》させてはいけない!」
叫んだ声に少春の笑みがひび割れる。ぽろぽろと落ちてきた滴《しずく》が顔を濡《ぬ》らした。
少春が泣いている。麒麟《きりん》が国を捨てて逃げ出すなんて。──それとも泣いているのは自分だろうか。