揺すり起こされてようやく六太は目を開いた。蒼穹《そうきゅう》の太陽がまともに目に射しこんで、脳裏を白く灼《や》いていった。
「気がついたか? 目が覚めたか」
がさがさとした魚臭い手に揺すられて、六太は目を開ける。間近に小屋が建っている。数人の人間が六太をのぞきこんでいた。
やれやれ、と六太を揺すっていた初老の男は息を吐く。
「呼んでも叩いても目を開けねえんで、死んでいるんだと思った」
安堵《あんど》したように言って、男は背後を振り返る。
「──若、目ぇ覚ましましたぜ。なんとか息があったらしい」
地に満ちた血の臭いに酔い、熱に浮かされて、歩き疲れて、なんとなく磯の岩場で眠ったところまでは覚えている。それから先の記憶がなかった。大きく息を吸いこむと、潮の臭いがした。血の臭気がしない。ここに流れる風は澄んでいる。
おい、と男は六太の頬《ほほ》を軽く叩く。
「お礼を言いな。若が拾ってくだすったんだ」
男の見やったほうを六太は見る。小屋の前の石に腰を下ろしている背の高い男の姿が見えた。
死んでいなかったか、と言って男は六太を見る。ふと笑んだ顔を見て、六太は背筋を粟立《あわだ》てた。寒かったのでも怖《こわ》かったのでもない。鳥肌が立つほど嬉《うれ》しかったのだ。
──天啓《てんけい》がどんなものだか、そのときになれば分かります。どんなに小さな麒麟でも、必ず王を選びますからね。
京を出て、何となく気の向くほうへ歩いてきた。初めは父母の郷里のある東のほうへ向かったが、すぐに気が塞《ふさ》いで先へ行く気になれなくなった。振り返ると西のほうがなにやら明るい気がした。陽光を求めるようにしてあてもなく荒廃した山野を歩き、西へ西へと向かって海辺の町までたどりついた。
「どこから来た」
立ち上がった男は地に半身を起こした六太の脇《わき》にしゃがみこむ。
──嬉《うれ》しくて、泣きたい。
「ひとりか? 家族とはぐれたか」
「……あんた、誰」
「俺は小松《こまつ》の伜《せがれ》だ」
──分かってしまった、と六太は目を閉じる。
これが、王だ。
この男が雁州国を滅ぼしつくす王なのだ