「ああ──お帰りなさいませ」
「うん……」
気のない六太の声をいぶかしんで、驪媚は軽く首を傾ける。
「どうなさいました」
驪媚、と六太は椅子に座り込んだ。
「国を望むということは、やはり玉座《ぎょくざ》を望むということだろうか」
「──は?」
六太は首を振る。
「ああ──違うな。どう言えばいいのか、分からない」
「どうなさったのでございますか」
「尚隆《しょうりゅう》は国がほしいと言ったんだ。王になりたいとも、位を極めたいとも言わなかった。ただ、国がほしいって。──おれはそれが単に王になりたいとか偉《えら》くなりたとか、そういうこととは違うように感じた。だから尚隆に玉座をくれてやったんだ」
「……台輔《たいほ》」
「ひょっとしたら、おれは間違っていただろうか」
「台輔、──いったい……」
六太は牀榻《しょうとう》の中にもぐりこんだ。
「つまんないことを言った。──ごめん」