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十二国記276

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示:「兵糧《ひょうろう》が危うい。兵力が落ちる前に町民を逃がす」 尚隆がそう言ったとき、六太はちょうど食事を運んできたところ
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「兵糧《ひょうろう》が危うい。兵力が落ちる前に町民を逃がす」
 尚隆がそう言ったとき、六太はちょうど食事を運んできたところだった。町民までが籠城《ろうじょう》して三日目である。
「しかし、若──いや、お屋形《やかた》さま」
「物資がつきてからでは遅い。どうあっても街の連中だけは逃がしてやりたい。連中をどこへ逃がすにしろ、逃げ出す奴らにも物資がいる。早急に決行しなければ、それさえ持たせてやれなくなる」
 臣下はしんとうなだれた。
「どうせここに籠《こ》もっていても飢《う》え死《じ》にするだけだ。船溜《ふなだ》まりから残った船を出し、町民を乗せて軍船でこれを包囲する。とにかく陸につけて我らがそこに布陣し、その後背から民を逃がす」
 言って尚隆は笑った。
「生きるのに飽《あ》いている奴は、そのまま俺とその場に残れ。そうでない奴は民を守りつつ後退する。国境を越えたら重い武器を放り投げて雲隠れしろ」
 片腕に疵《きず》を負った老爺《ろうや》が両手をついた。
「後退するものには将が必要でございまする。なにとぞ、お屋形さまはその将となってお逃げください」
「ばかを言うな。俺が逃げれば村上が追ってくるだろう。──ああ、あえて別の方向に逃げて、民から追撃を切り離す手もあるか。いよいよ陣が危うくなったらそれでいこう」
 いえ、と老爺は深々と頭を下げる。
「村上は我らがなんとしても足止めいたしますゆえ。どうかお屋形さまはばかりは、落ち延びてくださいませ。大内《おおうち》殿を頼ればなんとか生き延びることが叶《かな》いましょう。時をおけば小松《こまつ》再興も夢ではございません。それまではお忍びになって。──伏してそのようにお願い申しあげます」
「再興してどうする」
 尚隆は呆《あき》れ顔だった。
「肝心の民が離散して、どうやって再び国を興《おこ》せというんだ? ──まあ、これも乱世のならいだろう。うちは弱かったのだからしかたがない。無念だろうが、人間は往生際《おうじょうぎわ》が肝心でな」
 いいえ、と老爺はきっぱり首を振った。
「これから民は離散の憂《う》き目《め》をみますのです。お屋形さまがご無事で、いつか小松の国が再興なると信じられれば、民とて苦難を耐え忍べましょう。そのお屋形さままでが討たれておしまいになれば、本当に小松は滅んでしまいます。影武者を立てて遁走《とんそう》する民の中に紛れこませましょう。村上がそれを追っている間に、若は大内へ落ちてくださりませ」
「──ふざけるな!」
 尚隆が怒鳴《どな》って、老爺《ろうや》は一瞬身をすくめ、驚いたように尚隆を見上げた。
「俺はこの国の主人だぞ。この国の命運を担《にな》っておるんだ! それを民を見捨てて逃げろというのか!」
 老爺は身体を投げ出すようにして平伏する。
「命運を担っていればこそ。──なにとぞ」
「俺は若さまと呼ばれて、城下の連中にちやほやされて育ってきた。いまここで見捨てて、連中になんと申し開きをするんだ!」
「──若」
「若、と呼ばれることの意味を分からないでいられるほど俺は莫迦《ばか》ではない」
 尚隆は吐き捨てる。
「連中は俺の人柄に惚《ほ》れこんでくれたわけでもなければ、俺の器に感じ入ってくれたわけでもないぞ。ただ俺がいつか主《あるじ》になるから、ただそれだけでいちいちに俺を立ててくれたのだ」
「……お屋形《やかた》さま」
「それがどういうことなのか、分かるだろう。お前たちもそうではないのか。のちの世の平穏を願うから、俺を立ててくれたのではなかったのか!」
 臣はいちように平伏する。
「俺ひとり生き延びて小松を再興せよだと? ──笑わせるな! 小松の民を見殺しにして、それで小松を興《おこ》せとぬかすか。それはいったいどんな国だ。城の中に俺ひとりで、そこで何をせよと言うのだ!」
 臣下一同、平伏したまま身動きもない。
「俺の首ならくれてやる。首を落とされる程度のことが何ほどのことだ。民は俺の身体だ。民を殺されるは身体を刳《えぐ》られることだ。首をなくすよりそれのほうがよほど痛い」
 言って尚隆は立ち上がった。もういつもの泰然とした表情が浮かんでいる。
「──まあ、どうせ俺の首なぞ、振ればからから音のする飾りのようなものだからな」
 尚隆は笑う。
「この首ひとつで、どれだけの民を購《あがな》えるか、やってみよう」
 
 翌日、払暁《ふっぎょう》に船は島を出た。殺到《さっとう》する村上勢に対して必死に抗戦をし、かろうじて陸にたどりついたときには六|艘《そう》の軍船のうち、半数が沈んでいた。陸にたどりついて布陣し、退路を確保するために小松勢は善戦したが、激減した兵力では退路を支えきれなかった。
 逃げ出した民の群れが包囲され、退路を支えた兵のほとんどは斃《たお》れた。
 ──小松氏の滅亡である。
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