「更夜──すまなかった」
だって、と答えた更夜の声は、いまにも途切れそうなほど細い。
「……おれは……」
「礼を言う」
六太《ろくた》もまたその傍《かたわ》らに歩み寄った。
「……更夜」
うん、と微《かす》かにうなずいて、更夜は尚隆の前に膝《ひざ》をつく。頭を垂《た》れて首を差し出した。
「如何様《いかよう》にもご処分をお受けいたします」
「──更夜!」
尚隆はその姿をただ見下ろす。
「……俺は斬《き》らんよ、更夜」
「大逆に対しては斬首《ざんしゅ》と、それが慣例のはずでございます」
「断る」
更夜は顔を上げた。表情を歪《ゆが》めて叫ぶ。
「おれはあなたを助けようとしたわけじゃない!」
きゅる、と泣いて妖魔がその肩に嘴《くちばし》の先を当てた。
「──あなたを助けたかったわけじゃない。斡由《あつゆ》を助けてやりたかった。でも、とっさにろくたをとめてしまった。おれがとめたんじゃない。あなたがとめさせたんだ。斡由を見殺しにしたのは、おれの意志なんかじゃない!」
「──更夜」
「おれは斡由のためなら何をしても平気だった! 人を殺すのだって、少しも苦しくなんかない! だから尚隆だって殺せたんだ! 国が滅んだって、どんなに人が苦しんだって、子供がどれだけ捨てられたって、そんなの少しも気にならない!」
「更夜、言ったろう。俺はお前に豊かな国を渡すためにあるのだ。受け取る相手がいなければ、いっさいが意義を失う」
「おれ以外の奴に与えてやればいい。ほしがってる奴がいくらでもいるだろう」
「俺は欲張りだからな。百万の民と百万と一の民なら、後者を選ぶ」
更夜は面を伏せた。嘴の先で肩をなでる妖魔の首に腕を回す。ぱた、と涙が落ちた。
「……でも、おれにも大きいのにも、行く場所なんかないんだ