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十二国記295

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示:「──朱衡《しゅこう》、尚隆《しょうりゅう》を知らねえ?」 六太《ろくた》は内朝の官府をのぞきこんだ。 斡由《あつゆ》の
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「──朱衡《しゅこう》、尚隆《しょうりゅう》を知らねえ?」
 六太《ろくた》は内朝の官府をのぞきこんだ。
 斡由《あつゆ》の乱から十年が過ぎた。つい先頃六官諸侯の整理が終わり、官吏《かんり》の登用も始まって、ようやく朝廷が整い始めている。その新朝廷で朱衡は大司寇《だいしこう》に抜擢《ばってき》それた。六官のうち、秋官《しゅうかん》の長である。
「存じあげませんが」
 朱衡は相変わらず溜め息まじりだった。秋官庁の官が数人と帷湍《いたん》がその場にはいた。
「どうせ関弓《かんきゅう》にでも降りたのでしょう」
 朱衡が言うと、帷湍も手にした書面を振った。帷湍は、地官長《ちかんちょう》の大司徒《だいしと》に命じられていた。
「厩舎《うまや》をのぞいてみるんだな。たまがいるかどうか」
 たま、とは尚隆が乗騎にしている|※[#「馬+芻」、unicode9a36]虞《すうぐ》という妖獣である。
「へー、怒んないのか?」
「諦《あきら》めた。あいつは市街に降りて民がのんきにしているのを見て満足するのが唯一の楽しみなんだ。もうじゃまをする気も失せた」
「あ、っそ」
「何から何まで王を頼りにせねばならないというものでもあるまい。俺たちは勝手にやる。文句があれば、何か言うだろう」
「ホントに悟《さと》ったのなー」
 六太がしみじみと帷湍を見ると、朱衡までが邪険なことを言う。
「朝議に来られても、どうせ混ぜ返すだけ。ならば無理に来ていただかなくてもけっこうです。王などというものは、肝心要《かんじんかなめ》のところで役に立ってくださればいいのですから」
「どいつもこいつも、悟ったのな。……その境地に達するまでの経過を思うと哀れだなぁ」
「哀れんでいただけるのでしたら、たまには真面目《まじめ》なふりぐらいしてください、と主上にお伝えくださいませ」
「はーい」
 返事を残して六太は回れ右をする。背後で小官《しょうかん》たちがくすくすと笑っている。
 
 六太はまっすぐに王宮を駆けあがり、禁門《きんもん》へ向かう。燕寝《えんしん》と呼ばれる一郭《いっかく》の、奥まったあたりにある建物の、階段を降りれば凌雲山《りょううんざん》の中腹。そこに設けられた大扉がそれである。
 すでに扉は開いている。閹人《もんばん》に軽く手をあげて、禁門の外に駆けだした。
 外は巨大な一枚岩を平らに削《けず》って、空をゆく獣が降り立つことができるようになっている。その奥にある厩舎《うまや》へと走ると、中には尚隆が、たまに鞍《くら》を置いているところだった。
「──どうだった?」
 振り返った尚隆に六太は笑ってうなずいてみせる。
「あいつら、ぜーんぜん気にしてねえみたい」
 にっ、と尚隆は笑った。
「では、なんとかなるな。十日ほどいなくても」
「おーれは大丈夫。気がついて騒いだときは、あとのまつり」
 六太は布を頭に巻く。
「──で? どこに行くんだ?」
「奏《そう》へ行ってみるか。宗王《そうおう》はなかなかの知恵者らしいからな」
「自分に自信をなくして、落ちこんだりしてー」
 尚隆は意地悪げな笑みを浮かべて、六太のぶんの荷物を投げて寄こした。
「宗麟《そうりん》は玲瓏《れいろう》たる美女だそうだぞ。天女《てんにょ》のように慕《した》われているとか。──自信をなくすのはどちらだかな」
「へーんだ」
「市《いち》の統制に面白いことをやっているそうだしな」
「まねすんの? やだねー。志《こころざし》低くって」
「なに、国が富めばそれでよかろう。指摘されたら、ぼんくらだから猿まねしか能がないと言ってやろう」
「ぼんくら。そのとーりだろ?」
「ほう。隠していたが、やはり分かるか」
「……お前ってホントにバカ殿だな」
「堂に入っているだろう」
「言ってろ」
「──六太、そのうち、蓬莱《ほうらい》に行かないか」
 いわれて六太は手綱《たづな》を手にとる尚隆を見上げた。彼は軽く振り返る。
「あちらがどんな様子だか知りたい」
「おれ、やだぞ。王を連れて行ったら、災害になるんだからな」
 二つの世界は本来交わってはならないものだ。無理に交わらせ、道を開けば災異になる。麒麟《きりん》だけならさほどの災害にはならないのだが。
「だからひとりで行ってこい」
 六太は目を見開いた。
「……いいのか?」
「使令《しれい》がおるで、構わんだろう」
「猿まねついでに蓬莱のまねもするか?」
 意地悪く言った揶揄《やゆ》には快活な笑いが帰ってきた。
「だから言っているだろう。要は国が富めばいいのだ」
「ほんと、お前って節操ないのな。──行くのはいいけど、血の臭いに当たりそう」
「まだ落ちつかんか、あの国は」
「まだかかるだろうなぁ……」
 思わず六太がつぶやくと、尚隆は得たりとばかりににんまりする。
「──やはり蓬莱に行っていたな」
「あ?」
「関弓で出会わないので、どこに行っているかと思うていたが」
「それは、たまたま……」
「街に降りるならその派手な頭を隠すだろう。なにしろ隠す様子がないし、そんなことだろうと思っていたがな」
 ばれてしまえば笑うしかない。
「……えーと、でも、まあ」
「雁《えん》は官吏が有能だからな」
「そうそう。多少王と宰輔《さいほ》がおまぬけでも」
 声高く尚隆は笑った。
「──行くか」
 うん、と六太は|※[#「馬+芻」、unicode9a36]虞《すうぐ》にまたがる。厩舎《うまや》を駆け出し慌《あわ》てて駆けつけてきた閹人《もんばん》がとめる間もあればこそ、乗騎は跳躍して崖《がけ》を飛び立つ。ふわりといったん大きく下がって、一国を一日で駆け抜ける獣は飛翔を始めた。
 見下ろす下界には一面の緑野が広がっている。
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