これは異世界を舞台にした物語です。ですから当然、そこで使用されている言葉は日本語ではありません。ここにテーブルがある、これを読者にテーブルだと伝えたい。しかし、この世界には「テーブル」なる言葉がありません。四苦八苦《しくはっく》して「卓」だとか「卓子」だとか言い換えてみるのですけど、そういうことをしているうちに、じゃあ「部屋」は「部屋」と呼んでいいのか、「建物」は「建物」と呼んでしまっていいのか、深く疑問に思っています。
作中で「伊達《だて》ではない」という言い回しを使いたかったのですけど、これはどう考えてもこの世界、この時代、使用されるはずがありません。──じゃあ、「五十歩百歩」はいいのか? そのあたりを考え始めると、この世界の言語を作って、それで書いていかなくてはならないような、そんな気分に追いつめられてしまいます。
けれども、そんなことをしたら、誰にも理解できない話になってしまうわけで。そのあたりの調整が苦吟《くぎん》のもとです。こういうところでつまずいてしまう私は、やはりぜんぜんファンタジーにむいていないのかもしれません。──異世界ファンタジーを書いている人たちって偉大だなぁ。
なにはともあれ、三作目をお届けすることができます。なんとか日本語で書きましたので、ご安心ください。(笑)。
このシリーズ、実はシリーズ名がありません。おおむね皆さん、「十二国」とお呼びになっているようですし、自分としても一番呼びやすいのでそのように呼んでいますが、これはどうも広告に偽《いつわ》りあり、という気がしないでもありません。なにしろ、まだ三国しか出てきていませんので。なんとか南下し、あるいは西進したいとおもうのですが、結局おなじみの国になってしまいました。──どうしてなんだろう?
しかも、実をいえば今回、番外編という気分で書き始めたのですが、蓋《ふた》を開けてみれば我ながらどこが番外編なんや? というありさまになってしまいました。困ったことです。
そんなことはともかく。少しでも楽しんでいただければ幸いです。