暗い水の中に引きこまれ、意識を失い、次に目を開けたときにはゆらりと揺れる床《ゆか》の上だった。数人の男が鈴の顔をのぞきこんでいる。
鈴がきょとんと目を開けて瞬《まばた》きすると、男たちはほっとしたように表情を和《なご》ませて、口々になにかを言った。
鈴はその場に身体を起こす。周囲を見渡してぽかんと口を開けた。
そこは水の上だった。古びた板の敷き詰《つ》められたほんの少し先は水面、目を上げれば真っ暗な水がどこまでも続いて、はるか彼方《かなた》で真一文字に空と接している。こんなに広い水面を、鈴は生まれて初めて見た。
転がり落ちた大楠《おおくす》を探して背後を振り返ると、すぐ背後に首をのけぞらせて見なければならないほど高い崖《がけ》がそびえていた。崖は深くえぐれ、ところどころから白い糸のように水が流れ落ちている。その崖の麗《ふもと》から、板を敷き詰めて広い床《ゆか》が作られているのだった。床の水際にはいくつもの桟橋《さんばし》があり、そこに三|艘《そう》ほどの小さな船が寄せられていた。
——川を流されて、海にまでたどり着いてしまったのだろうか。
鈴はそう思った。川をずっと下っていくと、どんどん太くなって、やがては海にたどり着くのだと、そんなふうに聞いたことがあった。
——これが海。
真っ黒な水。手をついて床の端《はし》からのぞきこむと、近所にあった池や川とはまったく違い、おそろしく澄んでいる。それでも底は見えなかった。はるか彼方の暗黒にまで続いていて、そこにきらきらと光るなにかが群れを作って泳いでいた。
「————」
声をかけられ、軽く肩をゆすられて、鈴はようやく海から目を離した。男たちが、心配そうに鈴をのぞきこんでいた。
「————」
男たちは鈴になにかを話しかける。その言葉がまったく分からなくて、鈴はきょとんとした。
「なに? なんて言ったの?」
男たちはざわめいて、顔を見合わせる。口々にしゃべってなにか言葉をやりとりしたが、やはり鈴にはその会話が理解できなかった。
「ここはどこ? あたし、戻らないと。ここから村に戻るにはどうしたらいいの? 東京へ行く道でもいいんだけど。おじさんたち、青柳さまの家を知ってる?」
男たちはまたざわめいた。困惑したような表情がそれぞれの顔に浮かんでいた。