玻璃宮《はりきゅう》の水はぬるい。履《くつ》を脱ぎ水辺に腰をおろし、足先を池に入れて水をかきまわしている六太《ろくた》の横で、楽俊《らくしゅん》も同じように座りこんでいた。
「……そう思いますか、やっぱり」
楽俊は六太の横顔を見る。ひょっとしてそんなふうに感じるのは、自分だけなのだろうかと思っていたのだが。
「うん。——景麒《けいき》と上手《うま》くいってねえのかな」
「まさか」
「だって、あんまり一緒にいるところって見ねえじゃん」
「そうですね……、確かに」
うーん、と六太は膝《ひざ》の上に頬杖《ほおづえ》をついた。
「景麒が出てこないのは、おれたちが苦手だってのもあるんだろうけどさ。おれも尚隆《しょうりゅう》もこんなだからな、超堅物の景麒はつきあいにくいんだろう。……けどそれ以前に、どうも景麒と陽子ってのは危なっかしいんだよな」
「そうですか?」
「真面目《まじめ》すぎんだよなあ、景麒って。これで陽子が尚隆みたいにふざけた人間なら、それでもうまくかみ合うんだろーけど、陽子も真面目なやつだから、景麒がきりきりしてると思い詰める。……しかも景麒は陽子が二度目の王だからな」
「それ、やっぱり関係があるんですか」
「そりや、そーさ。二王に仕《つか》えると、どうしたって王を比べる。最初の王ってのは麒麟《きりん》にとっても思い入れがあるから、どうしても後の王に点が辛《から》くなる。たとえ前王が出来の悪い王だったとしても、短命で終わったとしても、麒麟としても悔《く》いが残るから忘れがたいもんだ。——せめて陽子が男だったら良かったんだろうけどさ」
楽俊は軽く息を落とした。
「そうでしょうねえ……」
「陽子だって予王《よおう》を意識しないわけにはいかんだろ。そのうえ景麒がああいう仏頂面《ぶっちょうづら》で口べたな性格だから、どうしたって深読みしたくなる。……こればっかりは時間が経《た》たないとな」
楽俊は景麒のそっけない口調を思い出す。表情に乏しい顔と冴《さ》え冴《ざ》えとした金の髪。金の髪は麒麟に固有の色だが、六太と景麒とを見比べてみれば、同じ金にも個性があった。六太の金は黄味が強くて明るいのに比べ、景麒の金はやや薄くどこか冷たい色味をしている。本人の性格をよく表していた。
「まあ、なんとかするさ、陽子なら」
六太がにっと笑って、楽悛もうなずいた。
「……そうですね」