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十二国記316

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示: 白い丘に風が吹き渡る。風花が散った。 祥瓊《しょうけい》は橇《そり》を引く手を休めて、腰を伸ばした。遠くに新道《しんど
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 白い丘に風が吹き渡る。風花が散った。
 祥瓊《しょうけい》は橇《そり》を引く手を休めて、腰を伸ばした。遠くに新道《しんどう》の里《まち》の隔壁《かこい》が見えた。ようやく里の間近まで帰り着いたのだ。雪の中に沈んだような里、夕暮れが近いせいで、あたりはすでに薄闇《うすやみ》が漂《ただよ》っていた。そこに白く祥瓊の息が流れていく。
 北方の国の冬は厳しい。特に降雪の多い芳《ほう》の冬は、寒さよりも暮らしそのものが辛《つら》かった。雪に埋もれる街道、孤立し閉塞《へいそく》する里。息を殺して雪解けを待つ人々。荷が動かないために、里にあるわずかばかりの店は閉まる。秋に蓄《たくわ》えたものが底をつくと、馬橇《ばそり》でやってくる行商だけが頼りだった。それが待ちきれないときには、膝上《ひざうえ》まで積もった雪をかきわけて近隣の里まで行かねばならない。——いまの祥瓊のように。
 祥瓊は肩で息をして、あらためて楯の引《ひ》き綱《づな》を肩に担《かつ》ぎなおす。門が閉まるまでに里に帰り着かなくてはならない。里から閉め出されるということは、凍死することを意味する。
 道は周囲の農地と段差を失い、どこまでが道なのか判然としなかった。周囲に広がる農地も間近に続くなだらかな丘も真っ白だった。丘の斜面には放牧する羊や山羊《やぎ》や牛が他里へ逃げていかないよう、石を積んで作った低い垣根がめぐらせてあったが、それも今は雪の中に没している。冬至《とうじ》前だというのに、今年は常になく雪が深かった。
 引き綱をかけた肩が痛む。足先には感覚がない。十|鈞《きん》もの炭をのせた橇は遅々として動かなかった。十鈞といえば、大の男の体重に匹敵する。
 ——こんな暮らしをいつまで続ければいい。
 疲労に麻痺《まひ》した祥瓊の頭の中にはそれだけがある。
 道を見失い、何度も吹き溜《だ》まりに落ちこんだ。その度に橇を起こし、炭を抱えあげる。急がなければ門が閉まる。その一心でがくがく震える足を励まし、喉《のど》も脇腹《わきばら》も切り裂《さ》かれたように痛むのを我慢して祥瓊は橇を引いていた。
 ——他の子供たちは、今日はみんな、遊んでいたというのに。
 冬の里を来訪するのは行商と朱旌《しゅせい》の集団だけだった。朱旌とは、芸をしながら諸国を遍歴する芸人を言う。その朱旌が里に来ているのだ。冬には本当に楽しみがないから、朱旌が来れば、ちょっとした祭りになる。なのに、祥瓊だけはその日に里を出されて、炭を買いにやらされた。冬には炭は欠かせないから、当然|蓄《たくわ》えはたくさんある。なのに春までもたないかもしれない、とそう言われて里《まち》を出されてしまったのだ。馬橇《ばそり》も貸してはもらえなかった。
 ——そんなに憎《にく》いか。
 祥瓊《しょうけい》は心の中で沍姆《ごぼ》に向かって毒づいた。
 一人で橇を引いて十|鈞《きん》もの炭を隣の里まで買いに行くことが、下手《へた》をすれば死に繋《つな》がることを知らぬ沍姆ではあるまい。死んでも構わない、と沍姆は言外に祥瓊に告げている。
 ——いつまでこんな暮らしを。
 二十歳になれば、農地をもらって里家《りけ》を出ることができる。この二十は数え年で数えるのが古来からの慣例だったが、祥瓊の戸籍《こせき》上の年齢からすると、まだ二年を待たなくてはならない。
 ——あと二年もこんな生活を。
 しかも二年|経《た》って、本当に農地をもらえる保証はどこにもない。月渓《げっけい》——祥瓊の父母を殺したあの男が、簡単に祥瓊を自由にしてくれるとも思えなかった。
 座りこみそうになる自分を励まして、ようやくのことで祥瓊は里閭《もん》までたどり着いた。閉門前にかろうじて里の中に入ると、里の中にはまだ浮き足だった空気が残っていた。よろけるようにして里家まで帰り、しばらく雪の中に座りこんでいた。里家の中からは子供たちの興奮した声が流れてきている。
 ——二年も。
 それは永劫《えいごう》の時間に思われる。王宮で過ごした三十年はあんなに短かったのに。
 惨《みじ》めな気分で立ち上がり、藁苞《わらづと》に包まれた炭をひとつずつおろす。納屋の中に入れてから、ようやく祥瓊は里家に入った。
「ただいま戻りました」
 裏口の扉を開けて厨房《だいどころ》に入ると、沍姆が皮肉げな笑みをちらりと見せた。
「ちゃんと炭は買ってきたかい。一|鈞《きん》だって欠けていたら、もういちど買いにやるからね」
「買ってきました。ちゃんと十鈞」
 ふん、と沍姆は鼻を鳴らして、掌《てのひら》を差し出す。祥瓊はその手の上に凍《こお》った財嚢《さいふ》をのせた。沍姆は中をあらため、祥瓊を冷たく見やる。
「ずいぶん釣りが少ないじゃないか」
「炭が高かったんです。今年は炭が少ないとかで」
 夏に大風が吹いて、近郊の山に生《は》える木がなぎ倒された。そのせいで、今年の炭はずいぶんと高い。
 どうだかね、と沍姆はつぶやいて、祥瓊に冷たい笑みを向けた。
「嘘《うそ》をついていれば、じきに分かる。それまではそういうことにしておいてやろう」
 祥瓊《しょうけい》は憮然《ぶぜん》とうつむく。こんなはした金をくすねたりするものか、と心の中で吐《は》き捨てた。
「——さあ、夕仕事にとりかかるんだよ」
 沍姆《ごぼ》に言われて、祥瓊はただうなずいた。閭胥《ちょうろう》に逆らう権利など祥瓊にはないし、どんなに疲れているか訴えたところで無駄だと、承知していた。
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