「……お前は」
「あたしは琶山、翠微洞《すいびどう》の者です。——ああ、どうか助けて!」
門卒たちは槍《やり》を構えて赤虎を威嚇《いかく》した。この娘はその妖獣《ようじゅう》に襲われたのだと思ったのだ。赤虎は一瞬門卒たちを眸睨《へいげい》してから、くるりと背を見せて飛翔した。門卒の何人かが安堵《あんど》の息を吐《は》く。
「娘、大丈夫か?」
明かりをかぎしてみれば、娘はひどいありさまだった。裂《さ》かれ、血で汚れた背子《きもの》、それも乱れて、同様に振り乱した髪も血|濡《ぬ》れている。
「襲われたのか、大丈夫か?」
助け起こす門卒に鈴はすがった。
——ああ、奇蹟だ。揖寧にたどり着けたなんて。
「助けて……! あたし、洞主さまに殺されてしまう!」
門卒たちは顔を見合わせた。
「どうかお願い、助けてください!」