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十二国記326

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示: 信じられない。 鈴は下官に案内されて王宮の奥深くに向かいながら何度も心の中でつぶやいた。 本当に王にお会いできるなんて
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 ——信じられない。
 鈴は下官に案内されて王宮の奥深くに向かいながら何度も心の中でつぶやいた。
 ——本当に王にお会いできるなんて。
 才国《さいこく》の国主、即位してまだ十二年に満たないが、善政で国民から慕《した》われている。——それ以外のことを鈴はいっさい知らない。
 ひとつ門をくぐり階段を昇り、ひとつ建物を通り過ぎる間に、建物はどんどん豪華になる。丹塗《にぬ》りの柱に白い壁、色鮮やかな走廊《かいろう》の欄干《らんかん》、窓には透《す》きとおった波璃《はり》の板が入って、扉の取っ手はことごとく金。床《ゆか》は細《さい》工彫《くぼ》りされた石を貼《は》りつめて、その所々には色鮮やかな陶器の床石がはめこまれている。
 下官が立ち止まり、見事な彫刻のほどこされた大きな扉を開いた。一歩入室するなり膝《ひざ》をつき、そのまま進んで平伏し、深く叩頭《こうとう》する。ぽかんと周囲を見渡していた鈴は、あわててそれにならった。
「失礼いたします。件《くだん》の仙女《せんにょ》をお連れしましたが」
 平伏した鈴には相手の姿が見えない。どこか怖《こわ》いものでも待ちかまえる気分で澄ませた耳に、やわらかな女の声が聞こえてきた。
「ありがとう。——ずいぶん若い娘さんだこと」
 年老いた女の声だった。蔑《さげす》む色も侮《あなど》る色もなく、その声が鈴を促《うなが》す。
「顔をお上げなさい。こちらに来ておかけなさい」
 鈴はおそるおそる顔を上げた。広い豪華な室内と、黒塗りの大卓、その傍《かたわ》らにひっそりと立った老女を見つけた。
「……あの……」
 この人が王なのだろうか。問うに問えず口ごもった鈴に、老女はやんわりと暖かな笑みを浮かべてみせた。
「お立ちなさい。怪我《けが》があるのなら身体をいとわなくてはね。——お茶をさしあげましょう。ここへ」
 老女は鈴に椅子《いす》のひとつを示す。周囲の女官にうなずくと、女官らが卓の上に茶器をそろえた。
 おっかなびっくり、鈴は立ち上がる。しぜん、手が上がって胸の前で指を組むようにした。
「あの……王様……いえ、主上でいらっしゃいますか」
 そうですよ、と笑った顔はどこまでも暖かい。
 才国の国王は本姓を中《ちゅう》、名を瑾《きん》、その字《あざな》を黄姑《こうこ》という。
「あたし……わたくし……」
「硬くなることはないんですよ。楽にしておいでなさい。——翠微洞《すいびどう》の方ですね?」
 黄姑は椅子を引いて鈴を促す。鈴はおそるおそるそこに浅く腰をおろした。
「はい……」
「お名前は?」
「鈴、といいます」
「すず?」
「あの、あたし、海客《かいきゃく》なんです」
 まあ、と黄姑は目を見開いた。
「それは珍しいこと。海客のあなたがどうしてまた仙に?」
 ああ、と鈴は嘆息した。どれだけの間、これを誰か優《やさ》しいひとに訴えたかっただろう。突然異国に流されたこと、言葉が分からずに泣いてばかりいたこと、梨耀《りよう》に会って、初めて人と会話ができたこと、乞《こ》い願って昇仙させてもらったこと。
 黄姑は軽くあいづちをうって先を促しながら、鈴の話に耳を傾けた。
 翠微君《えいびくん》といえば、先々代の王によって任じられた飛仙である。飛仙とは国の政《まつりごと》に参加する地仙《ちせん》に対するものをいう。国体には関与せず、ただ生きながらえるだけの人々。神に仕《つか》える飛仙もいたが、おおむね飛仙とはただ隠栖《いんせい》するだけの者だった。
 王が飛仙を任じる例は少なく、多くの飛仙はやがて生きることに飽《あ》いて仙籍を返上する。いま現在才国にいる飛仙はわずかに三人、そのうちふたりは行方《ゆくえ》が知れなかった。仙籍を返上しない仙は失踪《しっそう》することが多く、その後の消息が知れる者はほとんどない。
「翠微君は梨耀どの、といったか……」
 はい、と鈴はうなずく。
「それで、その怪我《けが》はどうしたのです? 本当に梨耀どのが?」
 黄姑に問われて、鈴は昨夜の顛末《てんまつ》を語った。梨耀に命じられて甘蕈《かんきん》を採《と》りにいったこと、その崖《がけ》っぶちで梨耀の赤虎《せっこ》に会ったこと、赤虎の監視が怖《こわ》くて崖を降り、そこから落ちたこと。
「それは大変なことでしたね。……けれども、この時期、しかも夜中に茸《きのこ》を採りに?」
「洞主さまは、そんなことに頓着《とんちゃく》なさったりしません。食わせてやってるんだから、どんな無理難題でも聞くべきだって思っているんです。しかも洞主さまは、あたしがお嫌いなんだもの」
 思い返すだけで涙が出てくる。
「ふた言目には追い出してやる、仙籍を削除してやる、って。あたしが言葉が分からないから、そう言えば絶対に言うことを聞くのを分かっているんです……!」
 黄姑は涙をこぼしはじめた娘を見つめる。飛仙は国政に係《かか》わらないから、黄姑も梨耀には会ったことがない。仙籍だけが受け継がれて、国庫に歳費が計上される。飛仙も国に関与しないし、国もまた飛仙には関与しない。それが慣例なのだった。
「とにかく一度、翠微君にお会いしてみましょう。あなたはそれまで、国府で養生《ようじょう》していらっしゃい」
 鈴は黄姑を見上げた。
「あたし、いまにも仙籍を削除されるかもしれません」
「大丈夫ですよ。それは仙君から依頼を受けて、わたくしが行うこと。もしも翠微君からそのように依頼があっても、決して削除しないと約束しましょう」
「……本当ですか」
 鈴は黄姑の顔をまじまじと見上げた。黄姑はそれに笑んで答える。
 鈴は息を吐《は》いた。長い間——本当に長い間、鈴を脅《おびや》かしてきた脅威《きょうい》からようやく解放されたことを知った。
「ありがとうございます。——本当にありがとうございます」
 ずるずると椅子《いす》から落ち、鈴はそのままそこに平伏する。
 これでもう、いっさいのことに怯《おび》える必要はなくなったのだ。
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