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十二国記327

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示: 里家《りけ》の裏の、畜舎《ちくしゃ》も小さな菜園も雪の中に埋もれていた。 家畜の息で暖かいはずの畜舎の中もしんしんと寒
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 里家《りけ》の裏の、畜舎《ちくしゃ》も小さな菜園も雪の中に埋もれていた。
 家畜の息で暖かいはずの畜舎の中もしんしんと寒く、祥瓊《しょうけい》は凍《こご》えた爪先《つまだき》を足踏みすることでなんとか暖めようとする。
 雪は日毎《ひごと》に深まる。廬《むら》から里《まち》へと人が集まったばかりの今は、一年の報告がゆきかい賑《にぎ》やかだが、年を越して一月も終わりになると、徐々に互いに飽《あ》きた空気が流れ始める。閉塞《へいそく》して過ごす冬は辛《つら》い。誰もが気|詰《づ》まりを感じ始め、小さな諍《いさか》いが起こるようになる。険悪になったころに春が来て、人々は喜びいさんで廬に帰っていくのだ。——祥瓊を残して。
 ——こんな気分なんて、知らないでしょう。
 祥瓊は飼い葉を運びながら、心の中で遥か東の国の王に向かって毒づいた。
 ——藁屑《わらくず》にまみれる暮らし、家畜の臭《にお》いがしみついた衣服、あかぎれだらけの手と、しもやけが割れて血を流す足。冷たい夜具とすきま風の入るあばら屋、朝起きると房間《へや》の中にまで霜《しも》が降りている。
 わたしは知っている。いま、あなたがどんな暮らしをしているか。
 絹の幄《とばり》、香をたきしめた牀榻《しょうとう》、すきま風の入ることのない、陽光の射しこむ房室。絹の裳裾を《もすそ》引いて歩くたび、玉佩《おびだま》や歩揺《かんざし》がきらきら音を立てる。かしずく下官、平伏する高官、床《ゆか》に玉を敷き詰めた玉座《ぎょくざ》、これ以上ないほど精緻《せいち》な彫刻を施され、玉を象嵌《ぞうがん》した座所と屏風《へいふう》、金の幡《はた》と銀の珠簾《すだれ》に縁《ふち》取られる。——ああ、そこにいた父親のなんと神々《こうごう》しかったことだろう。
 祥瓊がなくしたいっさいのものを持っている少女。
 飢《う》えたことも凍えたこともなく、今後もそれは決してない。万民の崇拝を一身に受け、百官の頭上に君臨する王——。
 身体を動かしていると頭の中は空洞になる。そこに渦巻くのは呪詛《じゅそ》の言葉だった。祥瓊はいつのまにか、自分がなくしたものを慶《けい》の新王に奪われたように感じていた。
 ……許せない。
「——玉葉《ぎょくよう》っ!」
 甲高《かんだか》い罵声《ばせい》が飛んで、祥瓊はふと我に返った。一瞬、ぼんやりと瞬《まばた》きをして、やっとそれが自分に向けられた声だということを理解した。
 祥瓊はあわてて振り返る。背後に沍姆《ごぼ》が立って、眼光|鋭《するど》く祥瓊をにらんでいた。
「飼い葉を切るだけにいつまでかかってるんだ、え? まったく、朝餉《あさげ》もできようかというのに、手伝いにも戻ってこないと思えば、ここでぼんやりさぼっていたわけだね」
「……すみません。ちょっとぼうっとしてて……」
「つべこべ言い訳をするんじゃない!」
 沍姆は手近の棒を掴《つか》んで祥瓊の足元を打った。
「……お前は、人の三倍も五倍も働くべきなんだ。里の人間から食わせてもらう権利なんかない。自分の食いぶちぶん、その汚い手で稼《かせ》いで当然なんだ」
 すみません、と祥瓊は再び小声で言った。
 とにかく辛抱《しんぼう》することだ。頭を垂《た》れていれば、そのうち通り過ぎる。それしか祥瓊にできることはないのだと、そう学んでいた。
 ただ沍姆が捨てぜりふを残して去っていくのを待っていたので、いきなり棒で打ち据《す》えられて祥瓊は驚愕《きょうがく》した。
「一度ぐらい、本心から謝ってみたらどうだい!!」
 祥瓊はその場に膝《ひざ》をつき、藁《わら》の中に倒れこんで、ようやく肩の激しい痛みを自覚した。
「小うるさい婆《ばばあ》に虐《いじ》められてるとでも思ってるんだろう! 口先で詫《わ》びを言えば、それであたしが納得すると、そう舐《な》めてかかってるんだろう!?」
「わたしは……」
 もういちど棒が振り下ろされた。祥瓊はとっさに身体を庇《かば》い、うずくまった背に激しい殴打《おうだ》をくらった。
「なんだってあたしが、あんたの面倒なんか見なくちゃならないんだい! なんだってこの里の者があんたを食わせなきゃならないんだ! 里家《りけ》の子供がどうして親を亡くしたか、お前は本当に分かってるのかい、え!?」
 なにも殴《なぐ》ることは、と言いかけて、祥瓊は唇《くちびる》を噛《か》んだ。
「なにもかにも、仲韃《ちゅうたつ》のせいだ。——お前の父親の!」
 それはわたしのせいじゃない、と祥瓊はうつむいたまま心の中に叫ぶ。
 ——ああ、景王《けいおう》。あんたは知らないでしょう。こんな暮らしを!
 唇を噛んだ祥瓊の耳に、小さな声が響いてきた。
「……それ、本当?」
 祥瓊は顔を上げ、沍姆もまた振り返った。畜舎《ちくしゃ》の戸口に里家の少女がひとり、棒を呑《の》んだように立ちすくんでいた。
「——お前……」
「玉葉のお父さんが仲韃なの? ……じゃあ、玉葉は公主さま……」
 少女はどこかすがるような目で祥瓊を見る。
「……祥瓊さまなの……?」
 返答に窮《きゅう》した沍姆と、祥瓊とが見守るなか、少女はぱっと身を翻《ひるがえ》した。裏庭に走り出、里家に向かって声をあげた。
「公主がここにいるわ! あの人殺しの娘が!!」
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