「炭だ。……凍《こご》え死にたくはないだろうからね」
祥瓊は冷え切った壁にもたれて沍姆を見る。
「凍え死んだほうがましよ」
「……じきにそうなる。いま里《まち》の連中がお前をどうするか、相談している」
「いまさら、哀れむの? 本当に、いまさらだわ」
沍姆《ごぼ》は祥瓊《しょうけい》をそっけなく見る。
「あたしはお前を哀れんだりしない。……ただ、恵侯《けいこう》に申しわけないだけだ」
祥瓊は笑って吐《は》き捨てる。
「——月渓《げっけい》! あの、簒奪者《さんだつしゃ》!」
「およし」
ぴしゃりとした声に、祥瓊は傲然《ごうぜん》と顔を上げた。
「王を倒して天命なく玉座《ぎょくざ》に座れば、簒奪だわ。どんな大義を掲《かか》げようと」
脳裏に甦《よみがえ》る、後宮での惨劇《さんげき》。
「あの男はお父さまを殺した。そればかりでなく、わたしの目の前でお母さままで。そのうえ峯麟《ほうりん》までも手にかけたのよ。——月渓は簒奪者だわ。王と麒麟《きりん》を屠《ほふ》って玉座を盗んだ」
沍姆は低くつぶやいた。
「そうか……お前の目の前で王后《おうごう》をお斬《き》りになったか……」
「逆賊《ぎゃくぞく》だわ、月渓は。——分かった?」
分かったとも、と沍姆は祥瓊を冷ややかに見る。
「お前が骨の髄《ずい》まで腐《くさ》っていることが、よく分かった」
「——なにを」
「恵侯は玉座にお就《つ》きでない。州城におられる。自分が恥知らずだからといって、他の人間まで恥知らずなのだと思わないが良かろうよ。——そこでそうやってせいぜい恨《うら》み言《ごと》を言っているといい。……じきにそれもできなくなるさ」
「やっぱり、なんのかんの言いながら、わたしを殺すのね」
祥瓊は背を向けた沍姆の後ろ姿を睨《にら》む。
——望むところだ。もう、たくさんだ。
「里《まち》の連中はそうでなきゃ気がおさまらないようだからね。——お前を車裂《くるまざき》にすると言っている」
祥瓊は腰を浮かせた。
「——待って。いま、なんて」
沍姆が閉じた扉が、そっけなく閉まった。
「……車裂……?」
両手を杭《くい》にくくりつけ、両足を二台の牛車《ぎゅうしゃ》につないで、身体を裂《さ》く。——もっとも残虐《ざんぎゃく》な刑罰。
祥瓊はようやく悲鳴をあげたが、それを聞く者は誰もいなかった。
冷え冷えと暗い牢《ろう》には、火桶《ひおけ》の炭火だけが赤い。