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十二国記347

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示: 渋色の帆が揚《あ》がる。船は小さく、帆は一枚。帆柱の頂上には小さな車がついている。これが順風車、国の冬官府で造られる呪
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 渋色の帆が揚《あ》がる。船は小さく、帆は一枚。帆柱の頂上には小さな車がついている。これが順風車、国の冬官府で造られる呪器《じゅき》だった。虚海側には良い港がないために大型船は行き来しない。おもに荷物を運ぶ船だが、依頼があれば人も乗せる。
 ——懐《なつ》かしい。
 鈴は船端《ふなばた》からその暗い海を見下ろした。漆黒《しっこく》の海、星のように明滅する光。懐かしい故郷から流されて、この世界で最初に見たのはこの海だった。鈴はなにも分かっていなかった。自分が溺《おぼ》れそうになった海がどれだけ故郷からは遠かったか。海中に明滅する光は魚のものだと、そういえばそんなことでさえ、鈴は知らなかった。
 深海にあって光を発する妖魚《ようぎょ》たち。こんなに小さく見えるけれども、あれは実際、艀《はしけ》なら呑《の》みこんでしまえるぐらい大きい。嵐《あらし》の時でもなければ、決して水面には浮かんでこないから、危険ではない。人を襲《おそ》う妖魔《ようま》はおおむね獣《けもの》や鳥で、それは黄海《こうかい》からやってくる。
 船は才《さい》の南にある港を出て、虚海を東進していく。内海ではなく虚海をゆくのは、途中に通る巧《こう》の王が斃《たお》れて、国が荒れているからだった。
「ふつう、三年や五年じゃ、妖魔があんなに出没するようにはならないんだが」
 顔見知りになった水夫は教えてくれた。
「とにかく、天災よりも妖魔がすごい。令巽門《れいそんもん》に通じる巽海門《そんかいもん》は特にひどいな。内海を雁から帰ってきたやつが、黄海から渡る妖魔の群れで陽《ひ》が陰ったと言ってた」
「まあ……」
 世界中央を丸く閉じる金剛山《こんごうざん》、その内側を黄海という。黄海へ通じるのは四《し》令門《れいもん》だけ、そのうちの南東にある門を令巽門といい、巧と黄海を隔てる海を巽海門といった。
「よっぽどあくどいことをやったんだろう、死んだ塙王《こうおう》は。死んでまだ何か月も経たないっていうのに、あのありさまだからな。巧の連中はたいへんだ。あれじゃあ次の王が起《た》つまでに、どれだけ国が荒れるやら」
「たいへんなのね……」
 妙《みょう》な国だ、こちらの世界は。鈴はそう思う。天の神さまが世界を創ったといい、実際、子供のなる木やら、不思議な生き物やら、本当に神さまがいてもおかしくはない気がするけど。——でも、だったらなぜ、神さまは国が荒れないように創らなかったのだろう。
 ——神さまがいるんなら、海客《かいきゃく》なんてないようにしてくれればいいのに。
 鈴を助けてくれればいいのに。
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