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十二国記355

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示:「首都州はかならず国の中央にあると思ってよい」 遠甫《えんほ》は卓の上に慶国《けいこく》の地図を広げた。地図といっても陽
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「首都州はかならず国の中央にあると思ってよい」
 遠甫《えんほ》は卓の上に慶国《けいこく》の地図を広げた。地図といっても陽子《ようこ》が故郷で見たような精密な地図はこちらには存在しない。だいたいの位置が分かる、その程度のものでしかなかった。
「慶国なら瑛州《えいしゅう》が中央にある。その周囲に八州。これも太綱《たいこう》によって決められておる。瑛州なら州侯は台輔《たいほ》じゃな。瑛州の土地は基本的に、国官への報賞として割与される。基本的に、国官には給金というものがない。必ず瑛州のどこかに封じられて、その封領から上がる租税《そぜい》から国への上納ぶんを引いた残り、これが給金がわりになる。封領の単位は最小は里《まち》で上納ぶんは半分、これに人頭税——賦《ふ》がつくから、一里を封領として与えられる官吏《かんり》の収入は、成人が田圃《たんぼ》から得る収入より五割ほど多いことになるな。最大は一県じゃ。封領の官府《かんしょ》の長官は領主が任命することができる。——これは州都のある郡《ぐん》も同様じゃな」
「首都郡を割与して、州官の報賞にするわけですね」
「そういうことじゃ。これの良い点はどういうところだと思うかね?」
 陽子は首を傾けた。
「こちらには紙幣《しへい》がないから、官吏の給与をお金で与えると家に持って帰れない……なんてことじゃないですよね」
 遠甫は笑う。
「為替《いてい》があるから、その心配は必要ないのう。——官には土地を与える。すると、国に飢饉《ききん》が起こったときには、官吏の給金は必然的にきりつめられる」
「ああ、なるほど。給料を下げたり上げたりしないでも、勝手に増減するわけだ」
「そのとおりじゃ。——悪い点は?」
「官吏が専政を布《し》けること?」
「そうじゃ。——いちおう、首都州には必ず牧伯《ぼくはく》がいて、郷《ごう》、県の各府に刺史《しし》を派遣《はけん》して政《まつりごと》を監督するが、必ず隅々まで目が届くというわけではない。刺史は県正《けんせい》と同格の扱いじゃが、その刺史と県正が癒着《ゆちゃく》して勝手をすることもあるな。租税は国によって決められておるが、賦は定められた範囲内で勝手に徴取できる。だから首都州の民は領主が代わるたびに一喜一憂する」
「……なるほど」
「ここ固継《こけい》のある北韋郷《ほくいごう》なら現在は黄領《こうりょう》じゃ。つまり領主がおらんで、台輔《たいほ》が統治しておられる。——昔は和州侯《わしゅうこう》の所領じゃったな」
「和州侯……呀峰《がほう》」
 陽子は眉《まゆ》をひそめた。呀峰は諸侯の中で最も悪名が高い。奸智《かんち》に長けた陰湿な男だと言われているし、州の政《まつりごと》に関しても酷薄、罷免《ひめん》せよという声も多いが、なかなかその契機を与えない。
「呀峰は予王《よおう》の登極《とうきょく》にあたって夏官長大《かかんちょうだい》司馬《しば》に任じられ、北韋のある北韋郷|黒亥県《こくいけん》を封じられた。のちに和州侯に任じられて去ったが、それを聞いた民の中には、やっと呀峰から解放されると泣く者が多かったというな。——呀峰は尾のない豺虎《けだもの》じゃよ。危険じゃが、捕らえる手がかりがない」
「六官も手を焼いています。——調査をしているけれど、罷免に足る証拠が出てこない」
「だろう。——そんなことは、ともかく——?」
 扉を叩《たた》く音が聞こえて、遠甫も陽子も顔を上げた。
「おじいちゃん、お使いだよ」
 書房《しょさい》に桂桂《けいけい》がそう言って飛びこんできた。
「おお。すまないな」
 遠甫が桂桂から手紙を受け取る。その場で開いて、ほんのわずか、陽子のほうを困惑したように見やった。
「……なにか、悪い知らせですか?」
 いや、と遠甫は手紙をたたむ。
「すまんが、陽子、今夜は来客がある」
 夕食のあとの授業ができないのだと悟《さと》って、陽子はうなずいた。桂桂が遠甫を見上げた。
「お客さん? ご飯とお部屋の用意がいるね」
「ああ、構わなくて良い。夕餉《ゆうげ》の後にいらして、今日のうちにお帰りになる。儂《わし》が良いようにするで、構わずお前さんたちは寝てしまいなさい」
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