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十二国記364

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示:「お客さんはどちらへご旅行で?」 食事を運んできた下男が訊《き》く。祥瓊は皿を並べる手元を見ながら眉《まゆ》をひそめてい
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「お客さんはどちらへご旅行で?」
 食事を運んできた下男が訊《き》く。祥瓊は皿を並べる手元を見ながら眉《まゆ》をひそめていた。
 ——嫌《いや》だわ。
 卓の上に並べられた食事は二人分ある。見ず知らずの人間と一緒に食事をしなくてはならないのだろうか、と渋い顔をし、さらに下男の呼びかけに答えて臥室《しんしつ》から出てきた——すでに臥室にいたらしい——人影を見て、祥瓊はさらに眉を寄せる。見ず知らずの他人と同じ卓で食事をすることさえ不愉快なのに、その相手がこれでは。
 ——半獣《はんじゅう》。
 半分、獣《けもの》に生まれた人間。多くはないが、少なくもない。芳《ほう》なら半獣はこんな上宿には泊まれなかったのに。少なくとも獣形のままでは、庭にも入ることはできない。
 その半獣は眉をひそめた祥瓊には気づかない様子で、ほてほてと出てきて下男に声をかけた。
「どーもありがとな」
 声は子供の声、鼠《ねずみ》の形の背丈《せたけ》も子供ほどしかなかったが、一人前に比甲《うわぎ》を身につけていた。会釈《えしゃく》する下男に小金を握らせて、鼠は椅子《いす》に座る。やっと座っている祥瓊に気づいたように頭を下げた。
「よろしく」
 どうも、と祥瓊はそっけなく声を返した。
「客が多いんで驚いたなあ。柳《りゅう》はいっつもこんな案配なのかい?」
 祥瓊はそれには答えない。半獣と同じ卓で食事をするなんて、と顔を背《そむ》けた。
「今日は特別ですよ」
 答えたのは給仕のために残った若者だった。
「雁《えん》から船が着きましたからね。お客さんもその船で?」
「ああ、そっか。——そう」
「降りてきたお客さんが半分と、これから船に乗るお客さんが半分です。——お客さまはどちらへ?」
「おいら都に行ってみようと思ってるんだけど」
 ああ、と若者は笑った。
「いいところですよ、芝草《しそう》は。でも、旅には寒い季節にいらっしゃいましたね」
「雁とあんまし差がないかな」
「そうなんですか?」
「雁も寒いからな。柳よりは南だけど、雁は条風《きせつふう》が吹くから」
 へえ、と言って、若者は祥瓊を見る。
「お客さまはどちらへ?」
 祥瓊は戴《たい》へ、と短く答えた。若者はとたんに目を見開く。
「……けど、戴は」
「荒れているんでしょう? だから行くの。戴に知り合いがいるのよ。困ってるのじゃないかと思って」
「戴のどこです?」
 訊《き》かれて祥瓊は内心でぎくりとした。
「どこって……なぜ……?」
 いや、と若者は困ったように笑った。
「おれ、もともと、戴へ行く船の船乗りだったんで……」
「……そうなの」
「戴へ穀物を運んでたんです。帰りには玉を積んで戻る。なにしろ戴は穀物が少ないから。——でも、もうだめですよ。妖魔《ようま》が多くて近寄れやしない」
「まあ……」
「虚海《きょかい》に囲まれた国が荒れると怖《こわ》い。海底の妖魔が浮かび上がってくるから、あっという間《ま》に孤立しちまう。——実際、この冬、戴の連中はどうやって食ったんだろう……」
 これは返答を期待しているふうではなかったので、祥瓊は黙って芳《ほう》のことを思った。条件はほとんど等しい。耕作をしていても、収穫は民を食わせるのにかつかつ、どこかが不作になったからといって他から回してやる余裕はない。
「お客さんの知り合い、もう戴を出ちゃったかもしれませんね」
「そうかしら……」
「ずいぶんたくさんの人間が雁《えん》に逃げたようだから。柳《りゅう》にもずいぶん来ましたしね。おれたちも最後の荷は人間でしたよ。なにしろ、舷側《げんそく》に爪《つめ》を立ててでも戴を出たいって連中が港にはあふれてましたから、乗せないわけにはいかなかったんです。下手《へた》に断れば、船を乗っ取られそうな案配で」
「……そう」
「結局、危ないってんで、船便が途絶えちゃったし。それでおれ、親を頼ってこっちに来たんですけどね。船を待ってる連中がいたんだろうなあ……」
「そうね」
「お客さんは吉量《きつりょう》があるからいいですけどね。船じゃもう、戴へは渡れないみたいですよ。雁からの便も途絶えたらしいし」
 祥瓊は軽く目を見開いた。
「わたしが吉量に乗ってることを聞いたの? もう?」
 若者は笑う。
「あんな立派な騎獣《きじゅう》に乗ってる客なんて滅多《めった》にいないですから。——あ、いや」
 若者はおとなしく食事をしている鼠を見やる。
「お客さんの|※[#「馬+芻」、unicode9a36]虞《すうぐ》はもっとすごいけど。※[#「馬+芻」、unicode9a36]虞なんて、みんな初めてだから、厩《うまや》にのぞきに行ってますよ」
 鼠はひげをそよがせた。
「べつにすごくねえよ。借り物だもん」
 それで、と祥瓊は鼠を見る。乗騎があまりに立派だから、半獣にもかかわらず子供——おそらくそうなのだろうと思う——にもかかわらず、一人前の客扱いされているというわけだ。
「でも、お客さん、きっともう空も危ないですよ」
 声をかけられて、祥瓊はあわててうなずいた。
「……ええ」
「ああ、慶《けい》へ行ったほうがいいかもしれないな」
「——慶に?」
「ええ。まだかろうじて、慶から武装した船がときどき往復してるらしいです。戴《たい》の荒民《なんみん》を集めてるんですよ」
「——え?」
「慶の奇特なひとが、戴の荒民を集めて、開墾《かいこん》を手伝わせてるんです。その代わりに、行けば土地と戸籍《こせき》をくれるって。おれがまだ戴に行ってたころ、定期的に戴に行っちゃ、荒民を乗せて帰ってました。ずいぶん便が減ったけど、あれがまだ続いてるらしいから、それに乗せてもらったほうがいいんじゃないかな」
「そうなの……」
 祥瓊はかろうじて笑みを噛《か》み殺した。
 ——戴へ行くのだ。そうしてその船を待って、慶へ渡る。戸籍をもらって堯天《ぎょうてん》へ向かう。……なんて、簡単なんだろう。
「いいことを聞いたわ。ありがとう」
 祥瓊は心底から、そう言った。
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