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十二国記374

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示:「遠甫《えんほ》申しわけありませんが、出かけてきてもいいですか?」 朝餉《あさげ》のあと、小学へと出かける遠甫を捕まえて
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「遠甫《えんほ》——申しわけありませんが、出かけてきてもいいですか?」
 朝餉《あさげ》のあと、小学へと出かける遠甫を捕まえて、陽子《ようこ》は訊《き》いた。
「構わんが、どこへ。——遅くなるのかね?」
「閉門までには帰ってきます。——拓峰《たくほう》へ」
 一瞬、遠甫は白くふっさりとした眉《まゆ》を寄せ、すぐに首を傾けた。
「なぜまた、突然」
「街を見てきたいだけです。……いけませんか?」
 遠甫はやや躊躇《ちゅうちょ》するように口を閉ざした。すぐにうなずき、視線をそらす。
「行ってくるがいいじゃろう。……それもよい」
 謎《なぞ》めいたことを言って、遠甫は背を向ける。院子《なかにわ》へと出ていった。
 陽子は眉をひそめてその背を見送った。
 ——なにか、ある。
 
 瑛州《えいしゅう》と和州《わしゅう》の州境をなす合水《ごうすい》、その峡谷《きょうこく》にかかった橋を渡ったところがすでに止《し》水郷《すいごう》だった。その郷都《ごうと》、拓峰《たくほう》までは馬車で半日、陽子は蔽《ほろ》の中で襖《うわぎ》を掻《か》き合わせる。
 雁《えん》ならば、よほどの河幅でないかぎり、橋がかかっている。渡しも整備され、馬車も船に乗って河を渡る。慶《けい》では橋の手前で馬車を降りなくてはならない。そもそも橋自体が少ない。この合水上流のように、峡谷をなしているために渡し場が設けられない場所にかぎり橋があったが、それも吊《つ》り橋《ばし》、馬車はとうてい通行できないから、旅人は馬車をそこで降りて対岸で馬車を乗り継がなくてはならない。それでも橋を渡せるだけまだまし、対岸が遠ければそれすらもできず、旅人は遠大な距離を迂回《うかい》しなくてはならなかった。
 ——慶は貧しい。
 対岸で旅人を待っている馬車の溜《た》まりを見ながら思う。
 ——雁と比べてみても仕方のないことだけれども。
 半日をかけてたどりついた拓峰は、北韋《ほくい》よりも荒廃の傷跡の深い街だった。北韋ならばさすがにもう被災した家は取り壊され、新たな建物が建てられているが、拓峰のそこここには焼けただれ、半壊した建物が放置されたままになっていた。街の外の閑地には粗末な小屋が立ち並び、むっつりと火を囲んで民がたむろしている。およそ北韋では見かけることのない荒民《なんみん》の群れだった。
 瑛州は恵まれているのだ、と陽子は思う。瑛州侯は台輔景麒《たいほけいき》、特に北韋のように黄領《ちょっかつりょう》ならば、民は救済を信じていい。反対に和州は悪名高い呀峰《がほう》が州侯、なるほどこれだけの差ができてしまうわけだ、と納得した。
 馬車を降りて代価を支払い、陽子は城門をくぐる。班渠《はんきょ》の微《かす》かな声に従って、街の南西へと歩いた。
 ひとつ通りを過ぎるたび、立ち並ぶ家は小さく粗末になる。やがては傾《かし》ぎ、道には飢《う》えた顔をした子供や、淀《よど》んだ目をした大人《おとな》たちがわずかな日溜まりに座りこんでいるのが見えるようになった。陽子は無意識のうちに、片手に提《さ》げた褞袍《がいとう》を握る。褞袍に包んだ剣の柄《つか》をしっかりと捕らえた。
「——あそこです」
 足元から微かに声がして、陽子は通りの先を見やった。あたりの様子からすれば格段にこざっぱりとした小さな宿がある。果たしてこんな一郭で商売になるのだろうかと思うほど、それはいちおう宿の体面を守っていた。
 陽子は宿に歩み寄り、開け放した扉をくぐる。中にたむろしたいかにも胡乱《うろん》な風体《ふうてい》の男たちの目がさっと陽子に集中した。
「——なんだい、小童《ぼうや》」
 奥で立ち上がったのは、北韋《ほくい》で見た大男だった。
「道を訊《き》きたいんだけど。——食事ができるかな?」
 すでに男たちの視線はそらされている。あの大男だけが歩み寄ってきて、手近の卓の椅子《いす》を引いた。
「座んな。——道に迷ったのか?」
「そのようだ」
 陽子はおとなしく椅子に座る。そろりと背筋を這《は》うものがある。景麒《けいき》から預かった使令《しれい》、冗祐《じょうゆう》の気配だった。——冗祐は緊張している。危険に備えて身構えようとしているのだ。実際、視線がそらされていても、卓子《つくえ》を囲んでいる男たちが全身を耳にして陽子の気配を探っているのが分かった。
 お前、と男は卓子に手を突いて身を乗り出してきた。その太くいかつい指に細く指輪のはめられていることを、陽子は妙《みょう》に印象に残した。
「——お前、女か?」
「だけど?」
 陽子が見上げると、男は軽く笑った。
「度胸《どきょう》が据《す》わってるな」
「それは、どうも。——あなたはここの人?」
 そうだ、とうなずく男を、陽子は見すえて笑ってみせる。
「——前に北韋《ほくい》で会わなかったか?」
 いや、と男はつぶやく。
「覚えがねえな」
 その表情からは、男が真実陽子を覚えていないのか、そんなふりをしただけなのかは分からなかった。
「まさか俺を訪ねてきたわけじゃねえだろ?」
「そんな気がしただけだ」
 陽子は追究をやめる。大いに胡《う》散臭《さんくさ》い。この男も、この宿も。この男が何者だかは、景麒に命じれば調べられるだろう。
「——わたしは食事がしたい、と言ったんだが?」
 男は恐れ入った、とつぶやいて、身体を反《そ》らした。その大きな体躯《たいく》の上から感心したように陽子を見下ろす。
「本当に度胸の据《す》わった娘だ。——金はあるのか?」
「高いのか、ここは?」
「高いよ」
 じゃあ、と陽子は席を立つ。
「わたしには向かないようだ。——広途《おおどおり》へ出るにはどうすればいい?」
 男は一歩踏み出した。
「……お前、何者だ?」
「旅の者だ」
「信じると思うか? ——お前、度胸が据わりすぎてんだよ」
 周囲の男たちが席を立って、眼光も鋭《するど》く側《そば》に寄ってくる。陽子は褞袍《うわぎ》の中の柄《つか》を握りしめた。
「……何を調べに来た」
「道を訊《き》きに」
「なめたことをぬかしてくれる」
 完全に包囲された。屈強な男ばかりが六人。さらに強く柄を握ったとき、その場にはそぐわない声がした。
「——やめて」
 陽子は視線を声のしたほうへすべらせる。男たちもまた店の奥のほうを振り返った。大男が振り返り、人垣《ひとがき》にすき間ができる。歩み寄ってくる少年が見えた。歳《とし》の頃は十四、五だろうか。屈強な男たちの中で見れば、頼りないほど小さく見えた。
 彼は男に歩み寄り、その腕に手をかけて引く。
「放してあげて」
 言って彼は陽子を見た。
「——行っていいよ」
「おい」
 振り解《ほど》こうとする大男の腕に、彼は腕をからめてすがりつくようにする。その指にも指輪があった。——陽子はそれをなんとなく記憶に残した。
「ごめんね、脅《おど》かして。みんな娘さんが珍しいんだ」
「……そう」
 彼は男の太い腕にすがるようにして二の腕に頬《ほお》を当てたまま笑みを浮かべる。
「気を悪くしないで」
 陽子はうなずいて、踵《きびす》を返した。渋々というように、男たちの包囲が解《と》ける。囲みを抜けて戸口へと向かいながら、陽子は少しの間少年を振り返って、すぐにまっすぐ頭を上げて宿を出た。
 
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