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十二国記384

时间: 2020-08-31    进入日语论坛
核心提示: 柳《りゅう》の東部から、祥瓊《しょうけい》は楽俊《らくしゅん》とともに高岫山《こうしゅうざん》を越えて雁《えん》へ入っ
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 柳《りゅう》の東部から、祥瓊《しょうけい》は楽俊《らくしゅん》とともに高岫山《こうしゅうざん》を越えて雁《えん》へ入った。国境を越えたとたん、見事に整備された道に祥瓊は目を丸くする。
 高岫山の尾根を伝い、谷をたどり、山肌を九十九折《つづらお》りに延びる道を登り、山腹の街で一泊、さらに登れば小高い峰の山頂には斜面を利用して街が広がっていた。細長い街の中央を高い隔壁が分断し、そこには巨《おお》きな門闕《もん》がある。この門の手前が柳、門の向こうが雁だった。その隔壁の手前と向こう、途《みち》の様子も街の様子も見事に違っているのが興味深い。
 磨耗《まもう》してくぼんだ石畳《いしだたみ》の途は、門を境に整然と敷き詰められた石畳に変わっていた。広途《おおどおり》といえば、轍《わだち》の跡が残る途の左右に小店《こみせ》が立ち並ぶのが当たり前の光景で、通りは人と馬車とで雑然としているものだった。それが門の向こう、雁に入れば小店が端正に並び、小店と道端の間を人波が流れている。
「すごい……」
 道端に並ぶのは高い建物。そのうちのいくつかは石造りで、四階も五階もの高さがあり、どの窓にも玻璃《はり》が入っている。高い建物が多く玻璃の入っているのは柳の街もまた同様なのだが、柳の街はどことなく古びて陰欝《いんうつ》な印象を与えた。それは建物がいかにも古いせいかもしれないし、建物の前の古びた石畳《いしだたみ》に残る凍《こお》った水たまりのせいなのかもしれない。あるいはせっかくの玻璃がすっかり曇って割れていたりするせいかも。いずれにしても柳の街は、雁の街を精いっぱい真似《まね》て、真似ることに疲れ果て、諦《あきら》めきったように見えた。
 ——豊かだとは聞いていたけれど。
 北方の国々で最も富んだ国。それでも想像以上の街に祥瓊は開いた口が塞《ふさ》がらない。
「雁だって寒い国なのに、どうしてこんなに違うのかしら」
 気候のうえでは芳《ほう》も雁も大差がない。雁のほうが芳よりも南に位置するが、大陸の北東から冬には凍るような条風《きせつふう》が吹く。実際、歩いた感触では雁に近づくにつれ暖かくなるという気はしない。
「大きな鉱山があるの?」
 楽俊を振り返ると、いや、と彼は笑う。
「芳や柳と違って、雁はなんにもねえからな。小麦を作って、牛を飼って、それで終わりだ」
 都市は大きく、商業も盛んだが、国の富は地からの収穫が大半を占めるものだ、と楽俊は言う。
「でも、こんなに違うわ」
「そりゃあ、主上《しゅじょう》の格の違いだな」
「王の違い? これが?」
「五百年国が傾いたことがない、というのはものすごく大きな違いなんだよ」
「でも……」
「玉座《ぎょくざ》が空《から》になることがなけりゃ、まず天災が少ない。戦災も天災もなけりゃ、人は増える。そいつらががんばって開墾《かいこん》するから農地が増える。その農地も手入れが行き届くから豊かだな。できた穀物は国がちゃんと監理して、値崩れしねえようにしてくれる。国は地を治めて、これがどんどん蓄積されていくから、国の端々まで整備が行き届いてる」
 たとえば、と楽俊は言う。
「溝を掘って雨期に備える。溝に小橋を作る、崩れないよう、石組みにする。途を横切る溝には蓋《ふた》をする。ちゃんとした方針があって、それに沿って街が治められてる。十年や二十年じゃ、国の端々まで行き渡らねえ。ひとつの方針が長く国を導いてるから、こんな辺境まで行き渡る」
 祥瓊の父親は三十年、玉座にいた。その先王は在位五十年足らず、それに対して五百年という長い時間、一人の王が統治してきた結果がこれ。
「王が短命な国はかわいそうだ。せっかく店を持って大きくしても、洪水《こうずい》で押し流されちまえば、また一から始めなきゃならねえ」
「そうね……」
「峯王《ほうおう》が厳しいのは有名だったからな。祥瓊にゃ悪いが、そういう王を持つと民は不幸だ」
 祥瓊はちょっと楽俊の横顔をうかがう。
「そうかしら」
「王ってのは、民を助けてくれるもんだからな。民を虐《しいた》げる王の在位が長く続いた例はねえ。いま現在|辛《つら》いってことは、近い将来、王が斃《たお》れてもっと悪くなるってことだろ。実際、宰輔《さいほ》まで死ぬと、次の王が起《た》つまでに五年や十年はかかる。二十年なんてこともざらだからな。二十年天災が続いちゃ、土地なんて荒れ放題だ。食うのにだって困る」
「どの王だって、民を助けるために一生懸命やってるわ。でも、それが必ず実ってすぐに結果に結びつくものじゃない。国が荒れれば人心だって荒れる。とりあえず刑罰を重くして無軌道になった民を道に戻す。それは必要なことだ、って思わない?」
 少なくとも祥瓊の父はそう言っていた。新しい法を布告するたび、少し厳しすぎるのではと言う官吏《かんり》が必ずいる。けれども国を立て直すためには必要なのだ、と口癖《くちぐせ》のように。
「ある程度は必要なのかもな。けど、物事には限度ってもんがあるからな。王が斃《たお》れたってことは、ゆきすぎたってことだろうなあ」
「芳の王が斃れたのは、天命が尽きたからじゃないわ。簒奪者《さんだつしゃ》が王を弑逆《しいぎゃく》したからよ」
 楽俊はうなずく。
「恵州侯《けいしゅうこう》が起《た》って王を討《う》ったんだな。——けどな、弑逆は大罪だけど、必ずしも悪いってわけでもねえ。王が国をどうしようもなく傾ける前に、あえて討ってそれを止めるってこともあるからさ。実際、そのほうがましなことがある」
 祥瓊はうつむく。なぜ父|仲韃《ちゅうたつ》があれほど憎《にく》まれていたのか、なぜ月渓《げっけい》のような簒奪者が人望を失わないでいられるのかは分かった気がした。民は仲韃がさらに国を傾けるだろうと思っていたのだ。ひどい荒廃が訪れる前に決断し、荒廃を止めた月渓を褒《ほ》める。少なくとも、民はそう評価していたのだ。そしてその王を諫《いさ》めなかった祥瓊にも、同じ憎しみが振り向けられた——。
 行こう、と楽俊に促《うなが》されて、祥瓊はどこか寂《さび》れたような柳の街から、華やかな空気の流れる雁の街へと足を踏み入れた。街の名は同じく北路《ほくろ》。
 さすがに雁に入るときに、旌券《りょけん》の改《あらた》めを受けた。慣例として、国境を越えるには旌券の改めがある。犯罪者の通行を取り締まるため、持ちこまれる荷を監視するためだった。旌券がないからといって追い返されることはないが、そのかわりに官の尋問を受けなければならない。
 事前にそう聞いていたので、祥瓊はやや緊張しながら門卒《もんばん》に旌券がない、と言った。門の脇の建物に行くよう指示されたが、別の門卒がそれをとめた。
「ああ、大丈夫だ。——こちらのお連れだ。お通ししろ」
 言った門卒は丁寧《ていねい》な礼をして楽俊に旌券を返す。祥瓊は首をかしげ、門を通り抜けてから、あらためて楽俊に訊《き》いた。
「あなたいったい、何者なの?」
「だから、学生だってば」
「考えてみると、楽俊って、すごく怪《あや》しげね」
「……ま、いろいろと事情があるってことさ。祥瓊にも事情があるみたいにな」
「なんだか、まるで柳を調べてるみたいだったわ」
「そういうことでは、あるな。——おいら、他の国を見てみたかったんだよ。巧《こう》で雁についていろいろ聞いてはいたけどさ、実際に行ってみると聞いただけとはえらく違う。学校はちょうど新年から春の休みだ。それでその間に他の国も見てみたかった。その話をしたら、柳へ行くんなら便宜《べんぎ》を図《はか》ってやるって人がいてな、その代わりに柳がどんな案配《あんばい》だか知らせてくれ、ってんで乗ったってわけさ」
 祥瓊はちらりと楽俊を見る。
「たとえば、柳が傾いているかどうか?」
 うん、と楽俊はうなずく。
「これは重大なことだ。もしも柳が本当に傾いているのなら、国境はこれから危険になる。柳から荒民《なんみん》が流れてくる。それを受け入れる心の準備がいる。前もって知っておくのとおかないのとでは、大きな違いがあるからな」
「だから調べてくれって、雁のえらい人が?」
「そうだ。——雁は立派な国だ。本当に豊かで、地も民もよく治まってる。けど、実は問題がないわけじゃない」
 楽俊は背後を振り返った。門を見て、その向こうを指さす。
「柳側の街はしょぼくれてる。どう考えたって、泊まるなら雁の宿のほうがよさそうだ。それでも夕方のこの時刻、柳に入っていくやつがいる。——なぜだと思う?」
 祥瓊は振り返り、首をかしげた。
「言われてみると不思議ね。あんなに人が出ていくわ。いまからじゃ、次の街までたどり着けないのに」
「雁には最低の宿がねえんだ」
「……え?」
「雁の民は豊かだ。宿に泊まるにしても、見ず知らずの人間と雑居するような宿に泊まる必要なんかねえ。だからそもそも、そんな宿は流行《はや》らないし、あったって泊まるのは宿代を踏み倒しかねねえ貧乏人《びんぼうにん》ばっかりだから、宿屋だって嫌《いや》がる。——けど、雁に住む人間の全部が豊かなわけじゃねえ。浮民、荒民、食うや食わずの連中がいる。こういう連中が泊まれる宿が、雁の街には少ない。旅自体もそうだ。雁には馳車《ちしゃ》しかねえんだ」
 街道にはふつう、馳車と呼ばれる二頭立てから四頭立ての馬車が走っていた。街道沿いの街から街へ、早駆けして乗客を運ぶ。馬車とはふつう、近郊の農民が余暇を利用して行うものだが、馳車は専門の業者が行う。
「雁は豊かだから、農民は農閑期《のうかんき》に馬車を走らせて小金を稼《かせ》ぐ必要がねえ。ふつう馳車っていえば貴人でなきゃ乗せねえけど、雁の馳車には誰でも乗れる。しかも値段もおそろしく安い。けど、その代金は馬車の相場ほどは安くねえんだ。民は豊かだから気にせずに馳車を使う。だけど、貧乏な連中が使える馬車がないから、その連中が旅をしようと思ったら寒風の中を歩くしかねえ」
 祥瓊はあらためて門を振り返った。なるほど、柳へと出ていく旅人は誰も疲労の色が濃く、身なりもいかにも貧しげだった。門の脇の建物へと流れていく者が圧倒的に多かったから、旌券《りょけん》を持たない浮民や荒民が多いのは一目瞭然《いちもくりょうぜん》である。
「雁は豊かだから、人が集まる。だけど、雁の民と流入した民の間には貧富の差が歴然とあるんだ。宿を取れねえ貧しい連中が街路の隅で寝て凍《こご》え死ぬ。それが嫌で追いつめられた連中は旅人から金を盗む。——雁が抱えてる最大の問題は荒民《なんみん》だ。大きな街じゃ雁の者より荒民や浮民のほうが数が多い。雁はここ何十年も、荒民の処遇に頭を痛めてる」
「それで柳の様子が気になるのね……」
「そういうことだな」
「——楽俊の旌券《りょけん》の裏書きをしてるのは誰?」
 楽俊は尻尾《しっぽ》を振っただけで、これには答えなかった。
「旌券を見せてもらってはいけない?」
 祥瓊が言うと、楽俊は黙って懐《ふところ》から旌券を出した。その裏面、鮮《あざ》やかな墨書《ぼくしょ》は、「雁州国 冢宰《ちょうさい》 院白沢《いんはくたく》」と。
「……冢宰」
 楽俊はひげをそよがせた。
「冢宰に面識があるわけじゃねえ。|※[#「馬+芻」、unicode9a36]虞《すうぐ》を貸してくれたひとが、冢宰に頼んでくれただけだ」
 冢宰といえば、諸官の長だ。冢宰にものを頼める以上、その人物は国の中枢《ちゅうすう》に近い。
「……すごいのね」
 楽俊はかりこりと耳の下を掻《か》く。
「べつにおいらが大人物ってわけじゃねえ。おいら、たまたま景王《けいおう》とは知り合いなんだ。それで」
「景王……」
 口にしたとたん、胸が刺し貫かれたように痛んだ。
「どうして……あなたみたいな……」
「半獣《はんじゅう》と知り合いか?」
 楽俊に問われ、祥瓊はあわてて詫《わ》びた。
「ごめんなさい」
「べつに謝《あやま》ることじゃねえさ。おいらはご覧のとおりの半獣だ。けど、それを悪いとは思ってねえから。損をしたなあ、と思うことはあるけどな」
「そういう意味じゃなかったの」
「うん。……おいらは景王とは知り合いだ。友達なんだ。おいらもあいつを友達だと思ってるし、あいつもおいらを友達だと言ってくれる。そういうの、まわりから見りゃ、奇天烈《きてれつ》なことだろうし、おいらも最初は、抵抗あったけどな。なにしろ王さまだからなあ。王さまを友達呼ばわりできねえじゃねえか。そう言ったら怒鳴《どな》られちまった」
「……景王に……?」
「うん。人と人の間には、立ってる場所の距離のぶんしか隔《へだ》たりはねえんだ。——そう言われた」
 楽俊は照れたように笑う。
「行き倒れてるのを拾ったんだ。それで雁まで連れていった」
 祥瓊はぽかんと口を開ける。
「行き倒れる? 景王が?」
「あいつ、海客《かいきゃく》だから。——胎果《たいか》なんだ。こっちに流されたら巧国で、巧は海客は殺せって国だ。逃げ回って行き倒れちまったんだなあ」
 祥瓊は胸を押さえた。王になった少女は、なにひとつ苦労なくその幸運を手に入れたのだと、そう思っていた。
「最初はおいら、景王を関弓《かんきゅう》へ連れていって、そのご褒美《ほうび》にちょっとした仕事がもらえるといいなあ、と思った。でもあいつといるうちに、そういう考えってのは、どうも卑屈《ひくつ》なんじゃねえかって気がしたんだ。——ご褒美をくれるってんでさ、望みはなんだって訊かれて。少学に入りてえって言うつもりで、本番になったら、口がするっと大学に入りてえって言っちまった。おいら家でもちゃんと勉強してたから、大学にいったって絶対ついていけるはずだ、って大層な啖呵《たんか》を切っちまったんだよなぁ」
 祥瓊は複雑な気分で楽俊を見る。
「わたしを雁へ連れていっても、誰もご褒美をくれないと思うわ……」
「そんなんじゃねえ。あんた、苦しそうに見えたんだ。牢の中で」
「わたしが?」
「苦しくて苦しくて辛抱《しんぼう》できないって顔してた」
 言って楽俊は目を細める。
「——おいらが会ったころの景王もそうだった」
「……それでわたしも拾われたのね」
 楽俊は笑う。
「だから、おいらはそういう巡《めぐ》り合わせなんだって言っただろ?」
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