街道を南下して和州首都|明郭《めいかく》に向かう。首都|堯天《ぎょうてん》へ向かう大街道が明郭を東西に抜けて止水郷を貫いていた。
山野は確かに荒廃がひどい。街道の途中には建物をなくした廬《むら》も多かった。耕作されないまま荒れ果てた農地、炎に炙《あぶ》られて炭の色になったまま立ち枯れる山林。ほとんど雪がないために、それらの様子が目の当たりだった。
たまに人がいる小さな里《まち》の閑地《かんち》には、小さな塚がびっしりと並んでいることがあった。
——あんなに多くの死者。
祥瓊は慄然《りつぜん》とする。荒廃した山河、失われた生命。これがすべて王のせい、王が玉座《ぎょくざ》にいなかったせい。
「娘さん——どこから来たね」
馬車の隣に座っていた老婆《ろうば》に訊《き》かれ、祥瓊は馬車の後尾から見る風景から目を離した。慶の馬車は蔽《ほろ》の後尾に覆《おお》いのないことが多かった。
「芳です」
「芳の王さまは死んだって、小説で言ってたが本当かねえ」
「——ええ」
そう、と老婆は釿婆子《おんじゃく》を抱く。
「芳もこうなるんだろうねえ……」
ぽつりと言った声に祥瓊は目を見開いた。
きっとこうなる。たくさんの人が死んで、その肉親が加害者を憎《にく》む。祥瓊が恵侯月渓《けいこうげっけい》を憎んだように。沍姆《ごぼ》が祥瓊を憎んだように。
——ああ、本当に憎まれるはずだ。
これほど国土が荒《すさ》むのでは。
「……慶はいいですね、新王が起《た》って」
祥瓊が言うと、老婆は低く笑った。
「良くなるといいけどねえ。前の王が起ったときにも、そう思ったけど……」
それきり老婆は口を閉ざした。