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十二国記413

时间: 2020-08-31    进入日语论坛
核心提示: 月のない夜、外では風が吼《ほ》えている。 里家《りけ》には明かりもなく、陽子は誰もいなくなった堂《ひろま》にぼんやりと
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 月のない夜、外では風が吼《ほ》えている。
 里家《りけ》には明かりもなく、陽子は誰もいなくなった堂《ひろま》にぼんやりと座っていた。
 景麒《けいき》が転変《てんぺん》し、桂桂《けいけい》を王宮に連れ戻った。まだ息はあるが、瘍医《いしゃ》の話によれば、果たして助かるものかどうか分からないという。
「台輔《たいほ》も御不調で」
 驃騎《ひょうき》の声に、陽子はうなずく。
 ——なんてことだ。
 里府《りふ》の役人は蘭玉《らんぎょく》を見てそう、顔を覆《おお》った。
 ——遠甫《えんほ》と桂桂は。
 いない、と答えるしか、陽子にはなかった。桂桂まで死ねばどうすればいい。もしも生き延びたところで、蘭玉のいないことをなんと言って説明すればいい。そして、遠甫は?
 ——あんたがいればよかったのに。
 里宰《りさい》にそう言われるまでもなく、陽子自身がそう思う。自分がいれば、決して三人をあんな目に遭《あ》わせずに済んだのに。
「……景麒に礼を言っていた、と伝えてくれ。よく桂桂を運んでくれた」
「はい。——ですが、これからどうなさいます」
「遠甫を捜《さが》す」
「——主上《しゅじょう》」
「心当たりがないわけじゃない。どうあってもわたしは遠甫を捜し、犯人を捕らえなくてはならない」
「台輔が心配しておいででした」
「無茶はしないから、しばらく見逃してくれ、と言っておいてくれ。とてもこのままにはできない」
 ほんの少しの間をおいて、驃騎が、はい、と答える。
「そのようにお伝えします」
「うん。……頼む」
 それきり驃騎《ひょうき》の声は途絶える。しんとした沈黙と、風の音が堂《ひろま》に満ちた。
 明かりを灯《とも》す手はもうない。くるくると働いて、火を灯し、炭を埋《い》け、竃《かまど》に温かな湯気を漂わせていた少女はいない。もう二度と帰って来ない。
 陽子は椅子《いす》の上に放り出したままの太刀《たち》を手に取る。
 ——慶国《けいこく》秘蔵の水禺刀《すいぐうとう》。
 妖力甚大《ようりょくじんだい》な魔《ま》を封《ふう》じ、剣になさしめ、鞘《さや》になさしめた。うまく支配することが叶《かな》えば、剣は過去未来、千里の彼方《かなた》のことでも映し、鞘は人の胸中を読む。
 陽子は軽く太刀を抜いてその白刃《はくじん》を見つめた。この太刀は本来は水、主《あるじ》によって形を変える。水禺刀を作ったのは達王《たつおう》、初めにはまだ鞘がなく、当初これは長い柄《え》のある偃月刀《えんげつとう》だったらしい。これを名づけて水鑑刀《すいかんとう》という。これが主を惑わすことが分かり、達王は、後に鞘を作ってこれを封じた。水禺刀と名づけられて以来、主が替わるたびにその姿を変え、いまでは剣として陽子の手の中にある。たとえ斧《おの》であっても混紡《こんぼう》であっても、必ずその姿に応じて鞘がつく。鞘がなければ、主に仇《あだ》なす魔刀になる。——だが、その鞘を陽子は失ってしまった。
 ——水鑑刀と呼ぶべきか。
 冬官に命じて、鞘を作らせたものの、どれも剣を抑えられなかった。それどころか鞘という箍《たが》の外《はず》れた剣は日に日に暴走する。もはや陽子には御《ぎょ》しきれず、白刃に浮かぶ幻影も意味不明の悪夢ばかり。せっかくのこの世で無二の宝重を、と官は鞘を失った陽子を無言で責める。
 じっと白刃をのぞきこみ、陽子はやがて息を吐いた。
「……だめか……」
 白刃を通りすぎる幻《まぼろし》のどこにも遠甫の姿はなかった。
「……班渠《はんきょ》」
 はい、と闇《やみ》の中から答えがある。
「少し寝る。門が開く前に起こしてくれ。朝いちばんに拓峰《たくほう》へ行く」
 御意《ぎょい》、とただ声だけの返答があった。
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