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十二国記420

时间: 2020-08-31    进入日语论坛
核心提示: 結局もうひとつの荷が来たのは、閉門ぎりぎりの時間のこと。鈴《すず》も祥瓊《しょうけい》も豊鶴《ほうかく》を出ることがで
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 結局もうひとつの荷が来たのは、閉門ぎりぎりの時間のこと。鈴《すず》も祥瓊《しょうけい》も豊鶴《ほうかく》を出ることができずに、労《ろう》の家に一泊を余儀なくされた。ふたりに一間をあてがわれ、広くもない部屋に並んだ天蓋《てんがい》のない臥牀《しんだい》と榻《ながいす》とで眠ることになった。
「……ええと、どっちを使う? 臥牀と榻と?」
「どちらでもいいわ」
「じゃあ、臥牀を使って。あたしは榻でいいから」
「……それは悪いわ」
「ううん。あたしは、帰りは三騅《さんすい》だから。——明郭《めいかく》ってずっと東の街でしょ? 祥瓊は帰りは馬なんじゃないの?」
「明郭なら、馬で一日よ」
「じゃあ、やっぱり祥瓊が臥牀でなきゃ。あたしは半日かからないから」
 祥瓊は少し考えるようにして、うなずく。
「じゃあ、ありがたく。——実を言うと、しばらくずっと榻で寝てたから嬉しい」
「そう? よかった」
 くすくすと、鈴と祥瓊は笑いあう。
「……鈴は拓峰《たくほう》でなにをしているの?」
 祥瓊は言って、あわてたように首をすくめた。
「こういうことも訊《き》いちゃいけないのかしら」
「……いいってことにしとこう?」
 くすくすと、もういちど忍び笑う声が臥室《しんしつ》に満ちた。
「——ええと、宿の雑用。祥瓊は?」
「わたしも雑用かな」
「でも、どうやってあんなものを」
 手に入れたの、と訊きかけて、鈴はさすがにそれを思いとどまった。これは立ち入りすぎというものだろう。——だが、祥瓊は首をかたむけただけで答える。
「ええ、不思議。あなたはあの荷がなんだか知ってるのね?」
「……まあ、いちおう」
「冬器《ぶき》なんて、なんに使うの? それも三十だなんて。簡単に手に入るものじゃないのに」
「それを手に入れてきた人が言う?」
「わたしはお使いを頼まれただけだもの」
「あたしも、そう」
 ぴたりと口を閉ざして、二人はしばらく互いを見やった。先に笑ったのは祥瓊のほうだった。
「……わたしは知らないの。どうしてあんなに冬器を集められたのか不思議。でも、お金はある人みたいだったから」
「へえ。……あたしたちはその……、ちょっと必要なだけ」
 祥瓊は首をかたむけて鈴を見た。拓峰から来た娘が三十もの冬器を集めている。冬器三十といえば、その値は通常の武器三百に匹敵《ひってき》する。
 ——拓峰。
「……ひょっとして、昇紘《しょうこう》?」
 鈴はあわてて手を振った。
「違う……違うから」
「わたしを使いに出したひとは、明郭で冬器の代わりに傭兵《ようへい》を集めてるわ」
 鈴ははたと目を見開いた。
「……呀峰《がほう》」
「ひょっとして、わたしたち、同じことを考えている?」
「——みたいね」
 臥室《しんしつ》にしんと沈黙が降りた。
 鈴は榻《ながいす》に腰をおろして息を吐く。
「ずっと一緒に旅をしてた子を、昇紘に殺されてしまったの、あたし」
「まあ……」
「どうして昇紘みたいな官吏《かんり》が許されるのかな。……本当にひどいのよ、止水《しすい》は」
「噂《うわさ》には聞いてる」
「きっとその噂は実際の半分も正しくない。清秀《せいしゅう》は——一緒に拓峰まで来た子は、なんにも悪いこと、してない。昇紘の車を停めたってだけで殺されてしまった。……あたし、すごく腹が立って。どうして昇紘みたいな奴を許しておくんだろう、と思ったらたまらなくて。でも、昇紘は——」
「呀峰に守られてる」
 祥瓊が言って、鈴は瞬《まばた》いた。
「やっぱり知ってる?」
「有名な話みたいね、それは。呀峰と昇紘と、似たもの同士だわ」
「……かもしれない。昇紘みたいな奴、誰かが罰してくれればいいのに。でも、呀峰や景王《けいおう》に守られてて、昇紘を罰する人は誰もいない。だから、自分たちの手でなんとかするしかないじゃない?」
「それ、違うわ」
「——え?」
「たぶん、景王は昇紘を保護してなんか、いないと思う。それは先代の予王《よおう》の時代の話じゃない?」
「先代もそうだったけど、いまの景王も——」
「わたしをここに来させた人は、景王は知らないだけだって言ってたわ」
「でも……」
 祥瓊は鈴の目をのぞきこむ。
「わたし、柳《りゅう》で景王の友人だというひとに会った」
「——え?」
「あのひとの友達なんだから、きっとそんなに悪い人じゃない。昇紘を保護しているとか、呀峰と癒着《ゆちゃく》しているとか、そういうことはないと思う」
「そうかしら……」
「景王はまだ登極《とうきょく》して短いんだもの。きっと分かってないことがたくさんあるんだと思うわ。……それだけだと思うの」
「分かってないなんて、許されないわ。だって王なんだもの」
 祥瓊は少しの間、鈴をまじまじと見すえる。
「……わたしの父も王だったわ」
「——え?」
「峯王《ほうおう》というの。三年前に民に討《う》たれて斃《たお》れた」
 ぽかんと口を開けた鈴の顔を、祥瓊はのぞきこむ。
「わたしの父は、とっても民に憎《にく》まれていたの。憎まれたあげくに殺されてしまった。いまでは父が憎まれていたのは仕方のないことだと思う。でも、そんな父でもわたしはやっぱり亡くして悲しい。……たぶん、鈴が清秀を亡くして辛《つら》いのと、同じくらい」
「……ああ、……うん」
「父を死なせたくなかったら、あんなに憎まれる前に父を諫《いさ》めればよかった。それができなかった自分が悔《くや》しい。……でも、もしも景王の周りにだって、わたしみたいな馬鹿な人間しかいなかったら? ううん、わたしの母も父と同じくらい憎まれてた。父に罪を勧《すす》めた、と言ったひとがいたわ」
 祥瓊は目を伏せる。
「……本当のところがどうなのか、わたしは知らない。でも、景王の周りにはそんな人間しかいなかったら? 父だって峯麟《ほうりん》に選ばれたのだもの、決して最初からどうしようもない人ではなかったはずだわ。……でも、周りにいる者が諫《いさ》めるときに諫めてあげられないと、簡単に道なんか踏み外《はず》してしまう……」
 鈴は祥瓊のせつなげな顔を見つめる。その表情に別の誰かの顔が重なった。
 ——傀儡《かいらい》なんだ。
「……そうか……」
 ん、と首をかたむけた祥瓊に、鈴は身を乗り出した。
「そう言っていた人がいたわ。噂《うわさ》だって言っていたけど。官吏が信頼してなくて、なにもさせてもらえない、って。だから官吏の言いなりになってるって……」
「ああ、やっぱり……」
「——そういうことなんだと思う?」
「いま、朝廷にいるのは、ほとんどが予王の時代からいた官吏なんだと聞いたわ。どういう人たちかは分かってるじゃない? 予王にみすみす道を誤《あやま》らせたひとたちよ」
「でも、景王は麦州侯《ばくしゅうこう》を罷免《ひめん》したの。麦州侯って、とても民に慕《した》われてた人なのよ?」
 そんなもの、と祥瓊は言う。
「奸臣《かんしん》の常套《じょうとう》手段じゃない。民に慕われてるようなできた人なら、呀峰や昇紘みたいな豺虎《けだもの》にとったら目障《めざわ》りなわけじゃないの? 呀峰や昇紘なら、罪を捏造《ねつぞう》して陥《おとしい》れることぐらい、平気ですると思うわ」
「でも……」
「瑛州《えいしゅう》のどこかの閭胥《ちょうろう》に、遠甫《えんほ》という人がいたんですって。とても道を知る偉い方だったそうよ。その遠甫のいた里家が襲われたらしいわ。誰かが里家を襲って女の子を殺して、遠甫を攫《さら》っていったんですって。里家の周りをうろついている連中がいて、その人たちが拓峰の人だという話。しかも、ちょうど遠甫が襲われたその日に、拓峰の門が閉門になったあとに開いた、という話を聞いたわ」
「それ……まさか」
 いったん閉じた門を再度開くことのできる者は少ない。ほとんど限られてしまう。
「まさか、昇紘が?」
「そういうことをやりかねない人間なんじゃないの? だったら、景王の周りにいる連中だって、麦侯を陥れることぐらい、平気だと思うわ」
 祥瓊は鈴の目をのぞきこむ。その大きな目にみるみる溢《あふ》れるものがあって、思わずしんとそれを見守ってしまった。
「……景王って……いいひとかしら……?」
「だと……わたしは勝手に思っているけど……。——そんなふうに言われるのが、嫌《いや》だった?」
 ううん、と鈴は首を振る。
「……だったら、嬉しい……」
「——鈴?」
「あたし、景王に会いたかったの。きっといい人だわ、って思ってた。才《さい》から来る船の中で清秀に会って、清秀はすごく具合が悪そうで、あたしとても心配だったの。だから、一緒に堯天《ぎょうてん》に行こう、って……」
 清秀、と呼ぶ鈴の声は胸が痛いほどせつない。
「でも、昇紘に殺されてしまって……あんな豺虎《けだもの》を見逃すひとなら、守ったりするひとなら、堯天に行ったって、きっと清秀を治《なお》してなんかくれなかったわ。だったら……あたし、なんのために清秀を拓峰まで連れていったの? あの子を死なせるため……?」
「鈴……」
 祥瓊は鈴の手を取る。
「清秀って子は、可哀想だったわね」
「うん……」
「……堯天までたどり着ければ、きっと景王が助けてくれたのに……」
「……うん……っ」
 祥瓊は泣きじゃくる鈴の背をなでる。子供のような泣き声が胸に痛かった。
 ——これほど。
 堯天の王に伝えてやりたい。景王が実際に、清秀を治してやれたかどうか、それは祥瓊にも分からない。……ただ。
 ——これほどにも、あなたは人々の希望の全てなのだ、と。
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