拓峰《たくほう》の一郭《いっかく》、寂《さび》れた妓楼《ぎろう》の中で歓声があがる。無事に荷を運んだ鈴《すず》に、ねぎらいの言葉がいくつもかけられた。
開かれた荷の中から大小の冬器《ぶき》が掴《つか》み出されていく。各国の冬官府からここに集まった高価な武器。ひとつ、ふたつならともかくも、十以上の数になれば、架戟《ぶきや》は必ず謀反《むほん》を疑う。大量の冬器を集めることは、よほどの手づるがなければ至難の業《わざ》に近い。
「刀剣《かたな》三十、以前手に入れた槍戟《やり》二十、矢が千。——これが俺たちの全てだ」
虎嘯《こしょう》は言って花庁《おおひろま》に集まった人々を見る。
「同志千に対して、八十そこそこの冬器ではいかにも少ないことは分かってる。だが、これが精いっぱいだった。勘弁してくれ」
しんと花庁の中の声が絶える。
「郷長《ごうちょう》を討《う》つのに、同志千では話にならねえぐらい少ないのも分かってる。あとは止水《しすい》の民が、呼応してくれることを願うしかねえ」
大丈夫だ、と誰かが声をあげた。
「昇紘《しょうこう》の首が揚《あ》がれば、昇紘|怖《こわ》さに諦《あきら》めてた連中も、諦めるには早かったときっと気づく。——なんとかなる」
鈴は花庁の片隅でかすかに身体を震わせた。その男の声は、言い聞かせようとしているように聞こえた。隣に立つ夕暉《せっき》を見れば、同じくなにかをこらえる顔をしている。
鈴は漠然と、虎嘯ならば大丈夫なのだと思っていた。少しも大丈夫ではないのだと、虎嘯も他の者もそう思っているとは知らなかった。