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十二国記427

时间: 2020-08-31    进入日语论坛
核心提示:「陽子」 やってきた鈴は、陽子を見るなり目を見開く。陽子が声をかけるより前に、虎嘯が口を開いた。「鈴、お前|豊鶴《ほうか
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「……陽子」
 やってきた鈴は、陽子を見るなり目を見開く。陽子が声をかけるより前に、虎嘯が口を開いた。
「鈴、お前|豊鶴《ほうかく》で、誰かが攫《さら》われたって話を聞いたと言ってたな」
 鈴はうなずく。
「瑛州《えいしゅう》のどこかの里家が襲われて、そこの閭胥《ちょうろう》が攫われたって聞いたけど……」
「なんて街だ。攫われた閭胥の名前は」
「街の名前は聞いてないわ。攫われたのは誰だったかしら。名前を聞いたけど、覚えてない」
「遠甫《えんほ》」
 陽子が口をはさむと、鈴は大きくうなずく。
「ああ、そうだわ。遠甫」
 虎嘯は陽子を振り返る。
「遠甫が攫われたのか? 本当に?」
「知っているのか、遠甫を?」
「弟が何度か話をしに行ったことがある。俺も一度だけついていった。——確かにあれは労の紹介だった。偉《えら》い御人《ごじん》がいるから、弟に会わせてみろと言われたんだ」
「弟……? このあいだの子か? 十四くらいの」
「夕暉《せっき》という。あれがそうだ。——遠甫の行方《ゆくえ》は分からんのか? 里家に怪我人《けがにん》は」
 陽子は息を吐いた。虎嘯は本気で驚いているように見える。——だとしたら、陽子には犯人を捜《さが》す手がかりがない——。
「……娘がひとり殺された」
「ひょっとして、蘭玉《らんぎょく》とかいったあの子か?」
 陽子はうなずく。
「……胡《う》散臭《さんくさ》い連中が里家の周囲をうろついていた。全部があんたを指しているとしか思えなかった。しかも里家の襲撃のあと、あんたたちはあの宿から移動した……」
「そりゃあ、お前さんが来たからだ」
 虎嘯は苦笑する。
「俺にも事情ってもんがある。あまり大きな声では言えねえ事情がな。嗅《か》ぎまわられるのはありがたくねえ。それを二度も胡散臭げにやってきた奴がいる。どうやら風向きが悪そうなんで、移動した」
「あの日、どこへ行っていた」
「近所だ。里家が襲われたのはあの日か」
 陽子はうなずく。
「たぶんあの日の午《ひる》から夕方。ちょうどわたしが鈴と話をしていた頃か、その後だ」
「俺はお前さんがいたとき、宿にいた。鈴と話をしている間に戻っていたからな」
 え、と陽子は虎嘯を見る。
「麦州侯《ばくしゅうこう》の話をしてたろう。俺としちゃ、お前さんがどうにも胡散臭いんで、厨房《だいどころ》のほうからのぞき見してた」
 どこか苦笑するようにそう言う。
「……昇紘《しょうこう》よ」
 低い声がして、陽子は鈴を振り返る。
「あの日、拓峰の門が閉まったあとに、馬車が戻ってきて、それが閉じた門を開けさせて入ったって」
 なるほどね、という小さな声はいつの間にか背後から聞こえた。振り返ると、夕暉が立っている。
「あなたは……」
「遠甫を襲う理由を考えてみた?」
 いや、と陽子は正直に答える。
「遠甫がどういう人かは?」
「もともと麦州の人だということぐらいしか」
 うん、と夕暉はうなずく。
「麦州の松塾《しょうじゅく》の関係の方だ。教師ではなかったけれど、教師の相談役のようなことをしていたとは聞いた。それ以上、詳しいことは知らないけど」
「松塾……?」
「街の中でね、道を教える義塾。麦州の産県《さんけん》にあって、とても高名な義塾だった。それが焼き討《う》ちにあったのが一昨年。塾舎もろとも教師が殺されたんだけど、幾人か生き残った人がいる。労はその松塾に通っていたことがあると言っていたから、きっと関係者なんだと思う」
「それで、ずいぶんな人が遠甫を訪ねて来ていたのか……」
「たぶんね。労は、くれぐれもそれを言わないようにと言ってた。松塾に関係する者はいまも狙《ねら》われているから、って」
「狙われる? なぜ」
 夕暉の返答はきっぱりとしている。
「道を曲げて我欲を満たしたい連中には目障《めざわ》りだからだよ」
「……そんな」
「民が道なんか知ってちゃ困る。もちろん官吏《かんり》になっても困る。徳も道も知ったことじゃない、って連中ばかりでないと、あっという間に自分が権からはじき出されてしまうから」
「しかし……」
「麦侯も松塾の出身だと聞いたよ。麦侯の存在は目障りだから、罷免《ひめん》させた連中がいる。偽王についた連中と、偽王につかなかった麦侯と。麦侯が正しいということになれば、偽王についた連中はみんな権を失ってしまう。だから王にあることないこと吹きこんで麦侯を陥《おとしい》れる。そういうふうにね、困る連中がいるんだよ」
 そうか、と陽子は額に手を当てた。
「労は、松塾を襲ったのは、止水郷府夏官《しすいごうふかかん》の小司馬《しょうしば》の差し金だろうと言ってた」
「なに——」
「詳《くわ》しいことは尋ねても話すひとじゃないから、聞いただけだけど。確かに松塾の犯人だったと言われてる奴は、拓峰でとぐろを巻いていた浮民だった。いまの小司馬は、ちょうど松塾の焼き討ちのあとに、単なる浮民に過ぎなかったのが大|抜擢《ばってき》されていきなり夏官になってる。犯人と小司馬は顔見知りだったらしい」
「……まさか、昇紘が」
 夕暉はうなずく。
「小司馬が黒幕だったとしたら、指図したのは昇紘だろうね。なぜ昇紘が麦州の義塾をそれほど怨《うら》んだのかは知らないけど。——昇紘なら、北韋にその松塾の者がいると知れば、殺しに行くよ。そういう奴だから」
 陽子は淡々と言う少年の顔を見つめた。
「では……遠甫は、拓峰にいる……?」
「その可能性は高い。——生死は分からないけど」
 陽子は立ち上がった。
「おい、どうした」
 虎嘯の声に、足を止める。
「助けに行く」
「——無茶を言う!」
「わたしは、助けなくてはいけないんだ」
 恩義もある、尊敬もしていた。蘭玉は死んで、桂桂《けいけい》もどうなるか分からない。遠甫だけは救わなくては。
「——待て」
 腕を掴《つか》んできた虎嘯の手を振りほどき、前に立ちふさがる夕暉の肩を押す。
「陽子、待って!」
 鈴の高い声に、やっと足を止めた。
「——昇紘はたくさんの護衛を侍《はべ》らせてるわ。馬車は拓峰に入ったってだけで、実際にどこに行ったのか分からないでしょ? 昇紘が攫《さら》ってきた人を押しこめておくところなんか、いっぱいあるわ。無駄に飛び出していかないで」
 でも、と言いさした陽子の腕を虎嘯は改めて掴む。
「昇紘は常に仲間が見張っている。たぶん問題の馬車がどこに行ったか、分かると思う」
 陽子は眉《まゆ》をひそめた。
「仲間——?」
「俺たちは昇紘を張っている。ずっとだ。この三年、一刻たりとも、奴がどこにいたか分かってない日はねえ」
「虎嘯——あなた——」
 陽子はいつの間にか十数人に増えた飯堂《しょくどう》にたたずむ人々を見渡す。
「あなたたち——」
 考えてみるべきだった。鈴が昇紘に恨《うら》みがないはずがない。
 虎嘯は軽く陽子の腕を叩く。
「大層なもんを持ってるが、そいつに仙《せん》が斬《き》れるのかい。……なんだったら、仙を斬れる剣をやろうか」
 陽子は薄く笑った。
「——斬れる」
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