先頭に立った騎馬が門を閉ざすまえに殺到し、たちまちのうちに門卒たちを倒す。閉じかけた門扉《もんぴ》が大きく開かれ、門闕上の箭楼《みはりば》に向かって武装した民が駆け上がっていった。
箭楼にいた師士《しし》たちは、昇紘《しょうこう》が己《おのれ》の虚栄のために作らせた過剰な装飾とその高さに身動きがとれなかった。門闕の高さ約九丈、すでにこの高さでは、明かりがなければ門下の人影が判別できない。しかも見晴らしのよい望楼であるべき箭楼は、門外に面してこけおどしの装飾がほどこされ、おそろしく視野を遮《さえぎ》った。とにかく弩を射て箭《や》を放ってはみるものの、どれだけが命中したのか定かでなかった。
弩《いしゆみ》に箭をつがえるのには時間がかかる。三射目をつがえ終える前に民が駆け上がってきて、たちまちのうちに投降を余儀なくされた。急を知らせる篝火《かがりび》も、果たして用を足したのか、応答のないままに消し倒される。
一部の師士《しし》は歩墻《ほしょう》を走り、あるいは城内に駆けこみ、各所に散った師士たちに急を知らせようとした。それらの多くは追いすがった民の矢をうけて、虚《むな》しく地に倒れ伏す。
いったん開かれた城門が、民を呑《の》みこんで閉ざされた。
「懸門《けんもん》をおろせ!」
怒声とともに、箭楼《みはりば》下部の滑車が動き始める。門扉《もんぴ》の内側に厚い一枚扉が、門道に刻まれた溝に沿って音をたてて降りていく。門道を断ち切る深い穴に、懸門が完全に落ちるのを見届けて、鈴《すず》はすでに内城を隔てる中門へと走る人々の群れを追った。
短い距離を駆け抜けると、すでに中門は閉じて、ここにもある懸門の降ろされる音が聞こえた。中の師士らが防衛のために門を閉じたのだ。ふつうなら内城の入り口である中門は簡素なものだ。内城をとりまく囲墻《かこい》も、民家の墻壁《へい》よりも高く厚い程度でしかない。城壁とつながり一体になった内城壁、ほとんど正門と遜色《そんしょく》のない中門の威容が、これを作らせた昇紘の性向をよく表している。
「——鈴!」
虎嘯《こしょう》の声に振り返り、鈴は駆け寄ってくる虎嘯に手を伸ばす。その手を取って虎嘯が三騅《さんすい》の上に飛び乗ってくるやいなや、嫌《いや》がって身をよじる三騅を叱咤《しった》して跳躍させた。
三騅は軽々と城壁を越える。歩墻の上に三騅の足が着く前に虎嘯が飛び降り、鈴は歩墻の上で三騅の向きを転じて、門の外に舞い戻る。五度往復して男を運ぶと、六度目には中門の箭楼から快哉《かいさい》があがった。
「よっしゃ」
声をあげて三騅から飛び降りる男を、虎嘯が迎える。
「中門を開ける! 鈴、全員を内城に入れろ!!」
「はいっ!」
三騅が門前に戻ったときには、中門が内側から開かれるところだった。開いていく門扉の向こうに上がっていく懸門が見え、さらにはその向こうに駆けつけてくる師士の群れが見える。
「——夕暉《せっき》、乗って!」
鈴は騎上から夕暉を促《うなが》した。弓をたわめた夕暉は中門の向こうに矢を放つと、うなずいて駆け寄ってくる。差し出した鈴の手に夕暉の手がからんだ。騎上に引き上げれば、三騅が不満そうに嘶《いなな》く。その首筋を鈴は叩《たた》いてなだめてやる。
「いい子だから嫌がらないで。——夕暉、怪我はない?」
大丈夫、と背後で声がする。
「鈴、声をかけたら前倒しになって。弓がぶつかるから」
「分かった」
言って鈴は三騅を走らせる。中門を抜けたところに仁王立つ虎嘯が軽く大刀《たち》を掲《かか》げた。
「全員抜けたら中門を閉めろ! 一気に昇紘のところへ行くぞ!!」
応える声が門道を揺るがせる。