「あれは——」
側の近従が見上げてきて、旅帥《しきかん》は騎上でうなずいた。
「城内は制圧されたな」
城壁の内はすでに静まりかえっている。郷府には堅牢な門闕《もん》があり、城壁は厚く高い。州師らが駆けつけたときには、すでに城壁を叛乱民に制圧されており、彼らはこの厚い守りを突破しなければならなかった。——だが、突破したところで、すでに守るべきものはないだろう。
「戦闘をやめて退《さが》るように言え。これ以上は、攻めても意味がない」
「しかし、師士《しし》が」
勢いこんで正門に突進する師士らを旅帥は騎上から見やる。
「連中にも忠告してやれ。どうせ昇紘《しょうこう》は討《う》たれたろう。戦わずに退ったからといって、連中を罰する者はもういないのだ、とな」
師士の熱意が、忠義によるものではなく、恐怖に由来するものであることを、彼は知っている。気に入られればどんな栄達も思いのままだが、わずかでも不興をかえば他愛《たわい》もないことで殺されかねないことは、昇紘に仕えていた者たちがいちばんよく分かっている。
「退って態勢を立て直す。四門《しもん》の前に陣を張れ。夜が明けるまでそこで休息させろ。明郭《めいかく》からの援軍を待つ。——連中、その前に逃げ出すかもしれんぞ。城内から逃げ出した者は必ず捕らえろ。抵抗すれば殺しても構わん」