——郷城が落ちた。
そのたびに行き交うのは驚愕《きょうがく》の声、そして、沈黙。
拓峰を解放する好機だ、と力説する者がいる。
「これまでどんだけの人間が殺されてきた? ここで一働きして、偉い連中に拓峰の人間は腰抜けじゃねえと教えてやらなきゃ、昇紘が倒れても、次の昇紘が来るだけだ」
「今度の郷長は、昇紘以上にひどい奴かもしれないわ」
「昇紘じゃ国は治まらねえ。それを教えてやらなきゃいけねえ」
「止水《しすい》だけは、豺虎《けだもの》じゃ治められない、ってことを分からせなきゃ」
それらの声は沈黙をもって迎えられ、扉を閉ざす音によって断ち切られていく。
肩を落とした人影が、ぽつぽつと街の南西隅に集まった。
「……どうだ?」
「だめだ。拓峰の連中は腰抜けばかりだ」
「郷城が落ちたと聞いても、喜ぶ者さえいやしない。みんないまにも絞め殺されそうな顔をしてる」
「なにかが起これば、怖《こわ》いことになるって、そう骨身にしみてんだなあ」
「小さくなってれば、弓矢に当たらずに済む? とりあえずそれで一生いけると思ってるのよ!」
「——連中は、どうするんだろうなあ……」
ぴたりと夜の道に囁《ささや》き交わされる声がやんだ。
「俺たちだけでも、支援に行くか——」
「なんとか逃がしてやりたい……」