陽子の声に周囲に目を走らせると、小途《こみち》から数人の男が飛び出してくるところだった。その手に武器を認めて、虎嘯は大刀《だいとう》を払う。先頭の一人を切り裂《さ》き払い飛ばし、返す動きで二人目を殴打《おうだ》して三人目を突く。
駆け抜けた陽子がその中に突っこんで、残る二人を鮮《あざ》やかにしとめた。
「相当伏兵がいるな」
「の、ようだな」
白虎門《びゃっこもん》からまっすぐに酉門《ゆうもん》へと向かう中大緯《おおどおり》、周囲で狼狽《ろうばい》する市民に、郷城へ行け、と促《うなが》して、虎嘯は大刀の露を払う。さすがの冬器《ぶき》も切れ味が衰えてきた。
残る距離を仲間たちと駆け抜け、右大経《おおどおり》を渡る。火は大経《とおり》の南にまで迫ろうとしていた。大経《みち》をわずかに下がって、虎嘯は足を止める。
大緯《とおり》の両側に並ぶ小店、これを引き倒しながら進んでくる騎馬の影がある。小店さえなければ途《みち》は約八十歩近く。滅多なことでは火は渡れない。途の左右の業火《ごうか》も、とりあえずはその連中を焦《こ》がすには至らない。
「連中は速い。……馬の足を狙《ねら》えよ」
虎嘯がつぶやくと、周囲からは了解の声が戻ってくる。
にらみあうまましばし、先に騎馬のほうが動いた。号令一下、地響きをたてて疾走《しっそう》してくる騎馬を受けて、虎嘯らは散開する。
陽子は軽く虎嘯から離れ、身体を低く身構えた。足元に向かって声を落とす。
「……頼んだぞ」
はい、と声が聞こえて絶える。
疾走してくる騎馬、その先頭の一頭がいきなり倒れた。なに、と虎嘯は目を見開く。倒れた騎馬につまずいて転がる後続、かろうじて避けた騎馬もどうしたものか足元をとられたようにして転倒する。
「——どうしたんだ!?」
「もうけたな」
涼《すず》しい声が横から聞こえて、虎嘯は陽子に目をやる。視線を向けたとき、すでに陽子は倒れた騎兵に向かって駆け出していた。