「これで|桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]《かんたい》の望むとおり、三日|粘《ねば》ってみせるぜ」
街の隅にある角楼《やぐら》、そこから見ても、布陣した州師が浮き足立っているのが分かる。もともと堅牢な郷城、さらにそこに昇紘《しょうこう》が大がかりな補強工事をさせて、拓峰《たくほう》は州城なみの城塞《じょうさい》になっている。
「——なんとかなったか。驚いたな」
驚いたというよりは、呆《あき》れたように桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]は言う。祥瓊《しょうけい》も鈴《すず》も、角楼の隅で顔を見合わせて笑った。
「……腹が減った」
虎嘯が床几《こしかけ》に座りこむ。なにしろ郷城のことだから、食料は豊富にあるが、食事を用意する人手がなかった。捕虜《ほりょ》の数は甚大、捕虜に食べさせるのは郷府の賄《まかな》い方に任せれば済むことだが、なにを盛られるか分かったものではないので、虎嘯らはそれに手をつけられない。やっと人手が増えた昨日、かろうじて煮炊きができたものの、夕刻のそれを最後に、これまで食事をする暇がなかった。
鈴はくすくすと笑う。
「街の女の人たちが、ご飯を運んでくれるから。もうちょっと待って」
情けなさそうに虎嘯が溜め息をついたところで、角楼《やぐら》の階上から声が飛んできた。
「虎嘯——援軍が——!!」
「なに!?」
虎嘯は跳《は》ね起き、階上に続く階段に駆け寄る。その場にいた者たちがその後に続いた。
「……虎嘯!!」
階段の上から見下ろす男は蒼白《そうはく》になっていた。
「——援軍だと?」
「旗が……」
男はうわずった声をあげた。
「——西に、龍旗《りゅうき》が——!」
虎嘯と|桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]《かんたい》が、先を争うようにして駆け上がっていく。祥瓊は呆然《ぼうぜん》とつぶやいた。
「龍旗って……それって王の旗じゃ……」
虎嘯らに代わって駆け下りてきた男の腕を祥瓊は掴《つか》む。
「本当に龍旗なの!?」
「ああ……」
「——軍旗の色は!?」
「……紫」
祥瓊も鈴も呆然と目を見開いた。陽子が上に駆け上がっていく。
——龍旗と紫の軍旗。それを押し立てるのならば。
「……禁軍《きんぐん》」