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十二国記461

时间: 2020-08-31    进入日语论坛
核心提示: 午門《ごもん》に近い隔壁に降り立ち、騎乗した人物を降ろして去っていく獣《けもの》を鈴《すず》は見つめる。「麒麟《きりん
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 午門《ごもん》に近い隔壁に降り立ち、騎乗した人物を降ろして去っていく獣《けもの》を鈴《すず》は見つめる。
「麒麟《きりん》……」
 うん、と祥瓊《しょうけい》の声が聞こえた。
「大丈夫だったのかしら、こんなところに連れてきて」
 遠巻きにした人垣は崩れない。どう対応すればいいのか分からない、と誰の顔にも書いてあった。実際のところ、鈴にも分からない。陽子、と呼んで駆け寄りたいが、それをしてはいけない気がした。
 ためらっていると、麒麟を見送っていた陽子が、鈴たちを振り返った。
「——もう、大丈夫だ」
 笑みに誘われて鈴は駆け出す。祥瓊とともにその間近に駆け寄った。
「大丈夫? 本当に?」
「王師は?」
「明郭《めいかく》に向かわせる。——ぜったいに呀峰《がほう》を捕らえてもらう」
 よかった、と鈴と祥瓊は声をそろえた。喜びを分かち合おうと背後を振り返ると、立ちつくした人々はまだ呆然《ぼうぜん》としている。
「虎嘯《こしょう》、大丈夫だって」
「|桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]《かんたい》、呀峰は王師が引き受けてくれるそうよ」
 大の男二人が、困惑したように瞬《まばた》き、ようやく緊張を解《と》いてみせた。
 真っ先に膝《ひざ》をついたのは桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]だった。
「——主上《しゅじょう》」
 あわてて、周囲の者たちが膝をつく。ぽかんとそれを振り返った虎嘯に、膝をついた夕暉《せっき》が声をかける。
「兄さん、ちゃんと叩頭《こうとう》して」
「いや、しかし……でも」
 困惑した様子の虎嘯に、くつくつと陽子は笑った。
「そんなことをする必要はない。みんな、立ってくれないか」
 やはり顔を上げる者はいない。虎嘯だけが困ったように立ちつくしていた。
「わたしが不甲斐《ふがい》ないばかりに、民にいらぬ心配をかけた。——すまない」
 陽子は言って虎嘯を見る。
「特に虎嘯たちには本当にお礼を言う。……よく昇紘《しょうこう》の膝元で、諦めず投げず、道を正してくれた。本当ならわたしがしなきゃいけないことだった。……ありがとう」
「いや、……その」
 軽く笑んで、陽子はぱらぱらと顔を上げる人々を見渡す。
「桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]たちにも、心から感謝する。——お礼がしたい。望むことがあったら、言ってくれないか」
 桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]ははっとしたように、顔を上げた。
「……本当にお願いいたしましても、よろしゅうございましょうか」
「構わない」
 では、と桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]は両脇の二人に視線を投げて陽子を見上げた。改めて手をつき、叩頭する。
「——もと麦州侯浩瀚《ばくしゅうこうこうかん》さまの大逆の疑いをお晴らしになり、いまいちどの復廷をお許しください……!」
「浩瀚——」
 陽子は目を見開く。
「|桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]《かんたい》——お前、麦州の者か……」
「わたくしはもと麦州州師将軍、青辛《せいしん》と申します。これらは同じく麦州師の師帥《しすい》でございました」
 桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]が振り返った二人は、深々と叩頭《こうとう》する。
「俺は——いや、わたしは、主上には申しわけなくも、偽王起《ぎおうた》ったおり、真っ先に偽王軍に下りました。その恥をそそぐ機会があればと、青将軍に従い——。このような身でお願いいたしますのは、非礼と存じますが、なにとぞ麦侯へのお怒りをお解《と》きください……!」
 なるほど、と陽子は叩頭した三者を見つめる。道理で桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]は只者《ただもの》ではないはずだ。大量の同志がいたのも、かつての部下か。思い返してみると、桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]の仲間はおおむね桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]に対して丁寧《ていねい》な態度をとった。
「桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]に訊《き》きたいのだが。——ひょっとして、お前たちが和州《わしゅう》に集まっていたのは、浩瀚《こうかん》の命《めい》か?」
「——さようでございます」
「そういうことか……」
 一度だけ即位祝賀の際に会っているはずだが、陽子は浩瀚を覚えていない。——だが、為人《ひととなり》はなんとなく分かる。この臣下から想像がつく。
「……桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]から、浩瀚に礼を言ってほしい。こんな愚《おろ》かな王でも仕えてくれる気があるのなら、ぜひ堯天《ぎょうてん》を訪ねてほしいと」
 桓※[#「鬼+隹」、unicode9B4B]は顔を上げ、一瞬陽子を仰《あお》いで再び叩頭した。
「——確かに、承りました……」
 陽子はうなずき、虎嘯に歩み寄る。あいかわらず困惑しているふうの、虎嘯の腕を軽く叩いて箭楼《みはりば》を示した。
「門を開けよう。……もう必要ない」
 ああ、と言って、虎嘯は大きく破顔する。足音荒く陽子に並んで歩く虎嘯を、陽子は振り返った。
「虎嘯は望みがないのか?」
「考えたことがなかったからなあ。……とりあえずちゃんと昇紘が罰されればそれでいい」
「欲がないな」
 虎嘯は苦笑する。
「ずっとこれしか、考えてなかったからなあ。——そうだ」
 虎嘯が足を止めるので、陽子もまた足を止めた。
「俺、処分されないのか?」
 陽子は軽く吹き出す。
「……処分? なぜ」
「いちおう、乱を起こしたというやつで……」
「虎嘯を罰したら、わたしも同じ刑罰を受けないといけないな」
「ああ、そりゃ、そうだ」
 言って虎嘯は笑い、そうだ、と陽子を見る。
「浅からぬ縁というか、同じ釜《かま》の飯を食った仲というか、そういうことで、ちょいと頼まれてほしいことがあるんだがなあ……」
「——なに?」
「お前、偉《えら》いんだから、上のほうにも顔が利《き》くだろ。それを生かしてだな、瑛州《えいしゅう》の少学《しょうがく》に夕暉を入れてやってくれねえかなあ」
 虎嘯と陽子を見守っていた鈴と祥瓊は思わず吹き出した。陽子もまた呆《あき》れたように虎嘯を見て、ややあって笑い出す。
「え? ——なんだ?」
 隔壁の上を徐々に陽光よりも明るい笑いが満たしていく。
 
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