よく、結婚は束縛だ、なんていう人がおりますね。たしかにそういう面もあるでしょう。そして、それがいい、ということだってあるんです。結婚して何年も一緒に暮らしていれば、お互いに全部丸見えになっちゃって、ますます大好きになるかもしれないし、逆に嫌いになるかもしれません。結婚とは、そういうものなわけです。
でも、恋愛は、そう何もかも丸見えにする必要は、ありませんよね。恋愛にしたって、お互いを束縛し合う部分が、ないわけじゃありませんが、一日のうちに、せいぜい四、五時間くらい会ってるっていう恋愛ならば、その間は、お互いの一番いいところだけを見たいと思いません? 最終的にものすごく好きになってしまうのだとしても、最初に好きになるのは、相手の一番いい部分からだと思うでしょう? ならば、逆にあなたのほうも、自分の一番いい部分をずっと、相手に見せ続けていくのが、恋愛のテクニックだ、と思うわけです。
よそ行き顔の恋愛、というわけ。
そうして、そのよそ行き顔の出し方を、自分の恋愛体験のなかから、ひとつひとつ、学習していくことが、大切です。どういう段階で、どうやって出すか——これは、ある意味で「チャート式数学」だと思うわけね。
チャート式恋愛においては、失恋は�勲章�になるといえますね。好きになった相手とうまくいかなくなっちゃった、というのは、失敗であると同時に、一個の勲章であって、誇ってもいいんです。ただし、失敗の原因をきちんと究明して、その復習を怠らなければ、の話ですけど。
どこで、どう、間違えたのか? 答案が返ってきたら、ミスした問題を復習するのと同じです。それはたとえば、自分の性格かもしれないし、あるいは相手にいったことばかもしれない。もしかすると、贈ったプレゼントに問題があったのかも……それを復習しておけば、次回の恋愛からは、同じ失敗を犯さないように「チャート」として頭のなかに叩《たた》き込んでおけます。そうすれば、もっといいよそ行き顔ができるはずです。失敗を恐れることはありません。その経験を「チャート」として活《い》かすようにすれば、次はもっといい形の、長続きする恋愛にめぐりあえるはずです。
女子大生や、若いOLが、中年のオジサンにまいってしまうのは、どうしてでしょうか? 強い必然があるようです。
家庭を持っているオジサンには、男の、恋愛対象に母親を求める部分、の処理役として女房といわれる人を持っています。家へ帰れば、オジサンたちは「オイ、お茶」とか「着もの」とかいって、女房に甘えることができるわけ。だから、外でOLと四時間つき合うときには、まったく生活を切り離した部分、よそ行きの部分のみでやれるわけです。
それはもちろん、女のコがトイレへ入ってるスキに、レストランの支払いをすませて領収証をもらっておき、あとで経費で落とす、なんていう生活の部分はあったりもしますけど、少なくとも相手の女のコには、それを見せないでおくことができますよね。
それに、オジサンの場合だと、トシの功があるから、そのコと同じ年齢あたりの若い男のコよりは「チャート」の数が多いわけですよ。押したり引いたりが、うまくできる。よそ行き顔の作り方が、うまいわけです。
こうなると、女のコは、同い年の押すだけしか能のない男のコより、オジサンのほうに憧《あこが》れちゃいます。かといって、オジサンたちも押し方は心得ています。若い女のコにも「母親になってあげたい願望」はありますから、オジサンは、
「ウチの息子は、英語がからっきしダメなんだ」
とか、
「住宅ローンが大変でね」
などといって、女のコに母親的感情を持たせ、その願望を刺激してやるわけです。なかなかのやり手です。
だから、若い男のコと会っているよりも楽しい。女房がいる、なんてデメリットに目をつぶってでも、オジサンとつき合いたいと思っちゃうわけですね。
中年のオジサンがモテちゃうのは、「よそ行き顔でつき合うノウハウ」を持っている、という強みです。楽しく、長続きする恋愛を成功させるためには、よそ行き顔をするのが一番だと思うんです。