患者は二一歳の大学三年生。彼は二二歳。
「私は二一歳の大学三年生です。彼は二二歳。一浪して大学三年です。彼ってほんとは呼びたくないんですけども、合コンで知り合った彼なんです。映画と食事のデート二回しただけで私はもうおつき合いをしたくなくなりました。理由は彼の食事の仕方、食べ方がなんとなくイヤだったんです。以来、デートはお断りしているんですが、すごくしつこいんです。このまえなんかは、『デートしてくれなければ自殺する』って電話でいうんで、怖くなってしまいました。それからは居留守をつかって電話を断っていますが、怖くて、怖くて。彼に諦めてもらう方法を教えてください」
最も古典的なお断りの方法は、「他に好きな人がいる」ということを、直接、相手に伝えることですね。そして、「私とあなたは合っていない」ということをはっきりといって、その現実を直視させることです。
「これから自殺します」
なんていう電話をかけてくる人というのは、まだ自殺するふん切りのついていない人なんですから、まったく恐るるに足りません。
「なんだって、おい、やめなさい、やめるんだ!」
といってもらいたいばっかりに電話してきてるわけですから、高い煙突のてっぺんまで登っちゃって、下のほうからスピーカーかなんかで、
「早く降りてきなさい!」
って呼びかけると、よけいに意地張って、
「イヤだ! 降りたくない! オレは死ぬんだ!」
というのと同じです。そういうわりには、いっこうに飛び降りないんですけどね。
この程度の男のコが、自殺するはずがありませんから、あなたは自信を持って、
「あなたはキライです。私には他に好きな人がいるんです」
といって電話を切るべきですね。そこで、変に同情したり、慈悲を持ったりして、その上で好きな人がいることを伝えても、ワカラナイ相手が、
「どーしてなんだよ?」
なんてきき返したときに、無口になってしまって、通話を一〇分間も続けているようでは、その男がいよいよノボセあがるばかりです。心を鬼にして、キッチリいいたいことだけいったら、電話はすぐに切りましょう。
万が一、その男が、何をカン違いしたか、ホントーに自殺したとしても、別に、あなたと結婚する約束になっていたわけでもなければ、何の拘束もないんですから、まったく関係ありませんね。あなたは無名の人ですから、週刊誌を賑《にぎ》わすこともないでしょうし、相手が愚かだったと、憐《あわ》れんであげるくらいでいいでしょう。もっとも、もうちょっと年をとってから、このようなことがあると、『週刊新潮』の「黒い報告書」にとりあげられる可能性もありますが、まあ、いまのところはだいじょうぶだと思います。